第8話 学園祭③


僕は幼い頃から物事に執着をしなかった。

とても子供らしくない子供だったと思う。



今でさえあまり直っていないと自覚しているが、言葉をオブラートに包むのがとても苦手だった。

だから僕の婚約者を決めるためのお茶会で自分は前世の記憶があり、らいみもとやらが一番のおしかぷだが、僕のこともそれなりに気に入っていた。これからの成長が楽しみだ、なんて言われたら本気で頭がおかしいのかと思ってしまった。


気を引くための冗談にしても度が過ぎる。ましてや僕が”それなり”というのも気に入らない。


『へぇ。ランマント侯爵令嬢。君はとても面白いことを考えるね?僕の気がひきたくてそんな妄言を吐いているのかな?だとしたら本当に愚かだと思うよ。』


思わずそんな言葉をこぼしてしまった。

すると言葉を訂正するどころかまくし立てるように

『ほんとうに毒舌腹黒なんですね!うわー!きっつい!あはは!そういうところがおせます!』

なんて言われたらさすがの僕でも本当に彼女が気の毒になった。

こんなにも虚言癖があっては爵位の高さもあって周りは強く言えないだろう。


『本当に重症だね。…僕以外の前ではやめておいたほうがいい。話をするなら僕が聞いてあげるから。』


それからはきちんと僕以外の前では普通の侯爵令嬢として振舞っているようだった。

初めの頃こそ本当に気の毒だと思っていたが、僕の前でだけ普通の少女のようになる彼女を近くで見ているのも楽しいと思うようになった。


そんな彼女に最近”ほんめいのおし”とやらが現れたらしい。

それがローメル商会のライザくんとミモザさんらしい。



聞けば、二人は恋人同士ではないがお互いに想いを寄せ合うもの同士らしい。そのじれじれな関係が良いんだとか。

その二人が好きなのは良いが、王太子妃教育がある中無理矢理時間を作って下町に出かけているのはいかがなものなのかと思う。僕の婚約者という自覚がないのだろうか。


隠れてみているだけでも迷惑だろうに、二人がなにかをするたびに彼女は悲鳴を上げている。

”両片思いがいいんです!でも早く気持ちを伝えてほしいとも思ってしまうんですの!”なんて言っていたが、ただ邪魔をしているようにしか見えない。あんなんじゃライザ君も告白なんてできないだろうに。

だから僕にできるだけの協力をすることにしている。


彼女が下町にいったと聞けばランマント侯爵家の者にそれとなく伝え、ライザ君の周りを執拗に追いかけていればそれとなく用事を言い、今日だって二人の邪魔をさせないようにそれとなくライザ君に目配せをした。


ライザ君も僕の意図を理解してくれているようで、そそくさと逃げていたしまたローメル商会から良いものを手に入れられそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る