第6話 学園祭①
学園祭にまつわるあるジンクスがある。
広場にある噴水の前で恋人に花を贈るとその二人は永遠に幸せになれるという物語にもよくあるようなものだ。
正直俺はこれまでそのジンクスをあまり気にしていなかった。というのもそもそもミモザは生徒ではないから学園祭であろうと学園内に入ることはできない。
これが貴族だとか、婚約者だとかだと違うけど。
でもどういうわけか今年からは一般の来場者も受け入れられるらしい。
どうやら
この学園祭で想いを伝えようと思った。
正直、ミモザは俺のことを幼馴染の兄ちゃんくらいにしか思っていないだろうけど、少なからず他の男よりも近い関係だと思う。
それにいつものプレゼントだって嫌がる素振りもない。
これで思い上がらないほうがおかしいと思う。
__________
学園祭当日
初めて学園に来た私はその豪華絢爛な学び舎に思わず息を止めてしまった。
普段はあまり近づくこともできず、門も閉まっていることからなんとなくでしか学園の様子は伺えない。
だからずいぶんと立派そうだなとは思っていたが想像以上だった。
私以外にも貴族ではないであろう人たちが学園の前で立ち尽くしている。無理もないと思う。
「おーい、ミモザ大丈夫か?」
ライザの声でやっと息を止めていることに気が付いた。
「まぁ、初めて見ると驚くよな。俺ももう2年も学園に通ってるから見慣れたものだけど、初めて来たときは驚きすぎて腰を抜かすかと思ったよ。無意識に建物の建設予算を弾いて心を鎮めてたくらいだ。」
「…その気持ちの落ち着け方はよくわからないけど、ライザらしいね。でも本当にすごく綺麗。さすが王族も通う学園ね。」
「さすがにお目にかかることは俺たちはほとんどないけどな。」
学園内は身分を問わず平等にというモットーはあるものの、さすがに王族や身分の高い令嬢・令息とは学ぶ棟が異なり、滅多にお目にかかることはないそうだ。
過去にはそれを潜り抜け、高位貴族に男爵令嬢が近づき国家をも揺るがそうとした事件があったためそのような措置がされているらしい。
怖い男爵令嬢もいたものだ。
「…それなのに、よくランマント侯爵令嬢とお知り合いになれたね?」
「俺は行けないけど上級貴族は別に行動を制限されてはいないからな。下級貴族や俺たち平民が気を遣うから暗黙の了解として立ち入らないだけで。それに知り合いになったわけじゃないよ。…なぜかいつも近くにいらっしゃるだけで。」
ライザも苦労しているのだろう。話しながら遠い目をした。
「そういえば、呼ばれたから来たけどそもそも学園祭って何をするの?」
学園に通うことのない私には馴染みのない文化だ。
去年まではライザも学園の守秘義務とかであまり学校行事については教えてくれなかった。
「あぁ、説明していなかったな。簡単に説明すると各家のビジネスの場かな。普段はお近づきになれないような上級貴族に自分の家業を宣伝できるチャンスだ。例えば、小さな雑貨屋だったのに公爵令嬢に気に入られて今では上級貴族御用達のお店になったなんてこともごく稀にだがあるんだよ。」
「それなら、ライザここにいていいの!?」
「おいおいミモザ。我が家はローメル商会だぞ?わざわざ宣伝しなくてもすでに王家御用達だぞ。店番も従業員のみんながこぞって手伝ってくれているし大丈夫。途中で売れ行きとか過不足がないかとかの確認はするけど、学生の俺より従業員のみんなのほうがその辺は詳しいし大丈夫だよ。」
「それもそうね。なら今日はずっとライザといられるのね!嬉しい!」
初めての学園、初めての学園祭に心を躍らせていた私はこちらをじっと見る二つの目に気が付かなかった。
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