第44話 門の前
睡蓮は、門に迫る敵を睨んでいた。
仙女の力の源を送り込む早春の門の前。
隣で炎花がイライラしている。
「あいつら……何なんだ」
炎花は、目の前に現れたかつての仲間に悪態をつく。
土の仙女と金の仙女。
それが蚩尤の味方をしている。
なぜ仙女が蚩尤の味方を? 常識では考えられない光景に炎花は混乱する。
「そこを退きなさい! 早春の門を閉じます!」
土の仙女、柘榴の耳を疑う言葉。
「ああ? お前ら、この桃源郷を滅ぼすつもりか?」
「この世界は、一度全てを終わらさなければなりません」
金の仙女、稲妻まで。
お前が手を抜いていたから、この門は蚩尤に奪われてしまったのではないか?
あの時に門を守っていたのは、炎花と稲妻だった。そもそも裏切り者に背を預けていたのだとすれば、門を守り切るなんて不可能だ。
桃源郷の民を見捨てて、自分たちは、力のある仙女達を連れて安全な崑崙山へ。
そして今ごろになって現れて、門を閉じろと言い出す。
何なんだよ。いったい!
炎花は、腹が立って冷静さを失う。
「それをお前らに決める権利がどこにある!」
炎花の言葉に、二人が冷笑を浮かべている。
「私達が決めたことではない。天帝様とその伴侶がお決めになられたこと」
天帝? 何のことだ?
「お前ら、崑崙山の岩場で頭でも打ったか? 天帝なんて、何百年も何千年も姿がない」
「頭まで筋肉で出来ている炎花にあったって無駄ね」
「はぁ???」
「睡蓮、あなたなら分かるでしょう?」
言われて、黙り続けていた睡蓮が、口を開く。
「幼い姿で桃華様が復活なされて、その秘密を探る中で一つ、気にかかることはあった」
「なんだよ。そんなの初耳だぜ?」
「桃華様の片割れが、存在するならば、桃華の対である水月様は? 水月様には、片割れはないのか」
「なんだよ、それ。水月の野郎……水月様は、一人しか知らねえぞ」
炎花の声が震える。
桃華と水月。西王母と東王父、蚩尤の国と不在の天帝。微妙なこの世界の均衡が、何か狂い始めている。
桃華があれほど幼い姿で復活した裏に、そういう裏があると言われて、否定する材料を炎花は待ち合わせでいない。
「天帝の命でお前らは動いているっていうのか……」
柘榴も稲妻も笑みを浮かべているだけで動かない。
「す、水月は? 水月はどうした?」
天帝が水月の片割れで、その天帝が復活したとなると、今まで存在した水月はどうなったのか。
「決まっているでしょう」
妙に冷静な柘榴の声が、炎花には恐ろしい。
「かつての桃華様はどうなったか」
「ま、まさか」
崩御なされた。
稲妻の言葉は、炎花には容易には理解し難い内容であった。
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