第43話 芽吹く
私の中で仙力が廻る。
熱い熱いエネルギーの塊が、私の力を強くする。
解放しても解放しても、お腹の底……丹田から湧き出る力は、そのまま干柿の種に注がれて、干柿はあっという間に巨木となって、その力強い枝に私を乗せる。
夫婦の息子の魂から作られた蚩尤を、巨木の枝が籠のように折り重なって捕まえる。
中で蚩尤がどう暴れようが、正気みなぎる巨木の檻は、捕らえて離さない。
「何だ……これは」
あの夫婦が、腰を抜かしてその場にへたり込んでいる。
夫婦の見上げる視線に私は、静かに笑顔を返す。
種は一つではない。
一つの干柿からグングンと伸びる木々。
私と同じ桃李の力ならば、同じことが出来るはずなのに。桃源郷と同じ木々生い茂る世界を創ることは可能なのに。
桃李は、自分の得られなかった物を他から奪い取ることしか考えない。
そんなことにしか仙術を使わなかったから、ここはこんな荒廃している。
力があっても目的を間違えれば、こんなに無惨なことになる。
全部、全部、桃李の……いや、桃華である私たちのせいだ。こんな不毛な争いは、終わらせなければならない。
それなのに、力があるのに終わらせられなかったのは、先代の桃華。
そして、東王父である水月が殺した桃華とは、この桃李の先代。
今なら記憶かなくても分かる。
先代の桃華である私は、情に流されて桃李に負けた。
あの桃華の「ごめんなさい」の言葉は、桃源郷の者全てへの言葉だった。
だから前世では、私が姉で、私には、桃華だった記憶は無くなった。桃李が奪ったから。
そして、その後にすぐ、水月が桃李を西王母となった桃李を殺したから、私と桃李は、双子の姉妹になったのだ。
「今度は負けない!」
「あら、すぐ情に絆される貴女に何が出来るのかしら?」
クスクスと笑う桃李の言葉は、私の推論が正しいことを意味する。
そして、桃李の言う通り。
先代の大人の姿の時でも、結局、桃李を殺すなんてことが出来なかったように、この私にそんなことが出来るのかどうか。
「ここにおったか! 桃華!」
声のする上を見れば、天空を舞う龍の姿。
「人を呼び出したくせにチョロチョロ動き回りやがって! 探したではないか!」
呼び出した……? あ、ええっと、胡弓の弦? 引っ張って壊しちゃったやつ……。
「あ、あれってそういう……」
「全く! 力加減も考えずに引っ張りおって! 髭が千切れるかと思った!」
水月の姿は見えない。
驟雨が舞えば、キラキラと雨粒が溢れて地面に落ちる。雨粒は、地面に落ちて、大地を潤す。
潤された大地に、ポツポツと草。
ナズナ、カラスノエンドウ、シロツメクサ……小さな健気な雑草が、日もささない場所で芽を伸ばす。
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