第39話 逃走
この世界に来てから、ピンチばかりな気がする。今回は、その中でも最悪。敵陣に乗り込んで妹を助けようとしたら、妹自身が敵の総大将。さらに唯一の味方だと思っていた長牙が、ポンコツに。最終アイテムだと思っていた胡弓は、壊れてしまった。
「何も起こらないじゃない! 驚かさないでよ!」
桃李は美しいけれど冷たい笑いを浮かべる。
「ち、ちょっとした手違いよ!」
強がりを言いながら私はジリジリと後退する。本当、勘弁してほしい。弦を外してしまったのが駄目だった? 使い方を間違えた?
私に弦を張る技術はない。どうしようもない状況。
……しかし、取れてしまったものは、クヨクヨしても仕方ない。
「あ、貴女なんかに負けないんだから! 私は、桃源郷を守るのよ!」
「その意気です! 桃華様!」
長牙よ……。応援してくれるくらいなら、ちゃんと力を貸してよ。
ほら、そんな事を言うから、桃李が長牙を恐ろしい形相で睨んでいる。
長牙は、桃李の怒りに気付いて、ヒャ! と小さな悲鳴をあげて尻尾を丸める。
「もう……時間稼ぎのおしゃべりは十分よ」
スッと桃李が手をあげれば、蚩尤達が、動き出す。
――逃げなきゃ!!
幸い、私の知っている建物と同じ造りの建物だ。
逃げ道は良く知っている。
大きな太い腕を振り上げて私を襲ってくる蚩尤達。
私は、その足の間をかいくぐって街を目指す。
私の身体は小さい。
ここではない街で、人の間に紛れてしまえば、私を見つけることなんて出来ないはずだ。
桃李がここの支配者ならば、まさか街の人を攻撃したりはしないよね?
街の人が、私を捕まえて突き出す可能性はあるけれども……今の状況よりはマシだろう。
走る私の後ろを蚩尤達が追ってくる。
蚩尤の肩には、桃李が乗っている。
巨大な敵。
そのまま真っ向うから戦っても勝ち目はない。何とか姿を隠さなければ。
岩陰を渡り歩き、私は街へ向けて前に進む。
幸い、小さすぎる私の姿、桃李はすぐに見失ってしまったようだ。
長牙は、大丈夫だろうか?
今、桃李が私を追いかけることに夢中になっている間に、逃げられれば良いのだけれど。
はっきり言って、私に勝ち目はない。
だって、私に妹の桃李は殺せないのに、桃李は、私を殺そうと襲ってくる。
ならば、逃げるしかないじゃない。
逃げて桃源郷に戻って、今後どうするべきかを考えて、桃李に挑むべきだ。
幼い子どもの姿の私。
歩みはとても遅いけれども、長牙には頼れない。草も生えない暗い岩場の道を歩く。
「誰? 子ども?」
「嘘……こんな所に?」
見つかってしまった……。
岩陰から顔を出した瞬間に目が合ったのは、街の人。
夫婦なのだろうか。男女が二人。
私を怪訝な顔で見ている。
「えっと……女の子? 男の子? どうしたの?」
仙人の国からそのまま来たから、男の子の格好をしたままだった。
これは……誤魔化せる?
「僕は、子喬。お母さんからはぐれたの」
私は、おずおずとそう言った。
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