第34話 そのまま向かいます!

 長牙の背に乗りながら、私は仙人の国で聞いた話を長牙に伝える。


「そうですか。では、蚩尤の国へ向かわなければなりませんね」

「でも、どこにあるのよ。それ」

「そんな遠くはありませんよ。だって、蚩尤はこの仙界のどこにも現れるでしょう?」

「そうね。それはそう」


 遠い場所ならば、あれほどホイホイと現れる訳がない。

 ならば、蚩尤の国はどこにあるのだろう。


「真裏なんですよ。蚩尤の国は、仙界、仙女界の真裏。それはこの世の始まった時に、二つに分離して、背中合わせに陰と陽の存在として出現した」


 長牙が説明する。

 

「しかし、それに満足しないのが蚩尤達。全てを治めるために、蚩尤は仙界を襲う。そんなの、世の理としてあり得ないのに」


 空を疾走しながら長牙が苦笑いする。

 タンッと空気を蹴って雲をかき分け、虹の下をくぐって長牙は走る。


「だからね。蚩尤が開けた穴が塞がる前に、そこへ潜り込めば、簡単に蚩尤の国へいけるのです」


 雲を超えて目の前に広がった先には、蚩尤が立っていた。

 待って、すっかり長牙が、桃源郷へ向かっているとばかり思っていたのに、長牙は、自慢の鼻で蚩尤を探していたのだ。


「さあ、桃華様。さっさとあの蚩尤を倒して、蚩尤が出てきた穴から蚩尤の国へと向かいましょう!!」

「え、ちょっと!! 私は今、仙界から出てきたところ!!」

「でも、善は急げっていうでしょう? 私、飽きていたんですよね。ここ数日、日向ぼっこして過ごすだけで」


 長牙は、私が水月から情報を得るために四苦八苦していた間に、そんなにダラダラと過ごしていたのね。

 目に浮かぶわ。水浴びをして、フルフルと水分を飛ばしたら、そのまま日なたで転寝して。最近、蚩尤と戦ってばかりだったから、きっと良い静養になったのね。

 私はその間、とても大変だったのだけれども!!

 できれば、一度桃源郷に戻って、青鳥の手料理で一息つきたかったのだけれど。


 グガアアアア!!!!


 目の前で雄たけびを上げる蚩尤。突然現れた敵に蚩尤は興奮しているようだ。

 これを見過ごしてしまう訳にはいかない。


「この!!」


 周囲は森。状況は、私にとって有利。

 蚩尤と何度も戦っている私が、この状況で、たった一匹の蚩尤を相手に後れを取るわけがない。

 この国へ来てから、私だって成長しているのだ! たぶん。


 風のように走る長牙の背に乗ったままで蚩尤を翻弄し、あっさりと私は、蚩尤の急所に糸杉の先を突き立てた。


 消滅する蚩尤。

 蚩尤が消滅すると同時に、蚩尤が開けていた穴が閉じようとしている。


「そのまま突っ込みます!!」


 長牙が私を乗せたまま、蚩尤の国へと飛び込んでいった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る