第31話 言い訳

 少年に向かう蚩尤。

 大人の仙人の姿は遠くに見えているけれども、とても間に合わない。

 もはや、正体がバレるとか気にしている場合ではない。


 私は、槍のように尖らせた木を、蚩尤の体に突き立てる。


 今まで蚩尤と戦ってきたから狙いどころは分かっている。

 私の渾身の一撃で蚩尤は断末魔を上げて消えた。


「お、お前……何者?」


 少年が、私の力に驚いている。

 この世界において、未熟とはいえ東王父と対を成す唯一の力を目の当たりとして、少年は目を見開いて私を見る。


 かんっぺきにバレた。

 仕方なかったとはいえこれは絶対にアウトだよね。


「あ……えっと」


 どう言い訳しようかと迷っていると、私達の所に、大人の仙人たちが駆け寄ってくる。


「大丈夫か! 蚩尤はどうした!!」


 なんと言っていいのか分からずにまごまごしていると、


「なんか勝手に蚩尤の奴が消えたんだよな! なんか踏んで自滅したんじゃね?」


 少年が苦しい言い訳をする。

 でも、ここは少年の話に合わせた方がいいだろう。


「う、うん。なんだか分からないけれども、急に蚩尤が消えたの……病気の蚩尤だった……とか?」


 少年よりもさらに苦しい言い訳。

 そもそもあの悪魔のような蚩尤が病気になるのかどうかも分からない。


「はあ? そんなわけないだろう!」

「だって、本当に勝手に消えたんだぜ? 俺たちにその原因なんて分かるわけないだろう? なあ!」


 少年の言葉に合わせて、私はコクコクと首を何度も縦に振る。


「まあ……子どもに蚩尤が消えた理由なんて聞いても分かる訳ないか……」


 仙人は、頭をかいて「なんて報告しよう……」。と、眉間に皺を寄せている。


「おい! 行こうぜ!!」


 少年に腕を引っ張られて私は、少年についてその場を立ち去る。

 後には、大人の仙人たちが、蚩尤の消えた後を調査している。

 

「すごいな、これ……蚩尤がやったのか?」


 辺りの植物は、私が能力を使って成長させたり加工したりしたから、形が変わっている。蚩尤君暴れたから、全貌はつかみに難くくはなっているが、やり過ぎた?


 正体がバレる不安はあるが、どうしようもない。


「お前、名前は?」

「え?」

「名前だよ!」

 

 逃げながら少年に問われる。

 言えるわけがない。桃華は、この仙界では有名人だ。


「えっと……美華……」


 私は、思い出して間もない前世の名前を告げる。


「美華……ひょっとして女?? 桃源郷の仙女か?」

「う、うん。でも、ゴメン。詳しくは言えない」

「そうなんだ……俺は、子喬しきょう。よろしくな」


 ニコリと笑う子喬は、私に握手を求める。


「ありがとう。黙っていてくれて」

「同然だろう? 美華は俺のことを助けてくれたんだから」


 私は、子喬という思わぬ友達ができた。

 本当のことが言えず、私の胸は、チクンと痛んだ。

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