第29話 仙界の少年達
初日で聞きたい事の大半は聞けた。
私は、二日目は、のんびりと過ごしていた。
図書館で仙術の基本の書かれた本を読み、仙人の卵である少年達と雑談をする。
「蚩尤と戦ったことあるか? すげぇんだぞ!」
年長の少年が、自慢げに話しはじめる。
少年は、大人と一緒に国境付近を歩いていた時に、蚩尤と遭遇したらしい。
長である水月が正しく支配する国の中では、蚩尤は現れない。
桃華の力が弱っている桃源郷とは違う。
だから、少年はその時に初めて蚩尤を見たのだそうだ。
「変な匂いはするし、気は禍々しいし、姿はデカいし。本当に本にある通りの恐ろしい奴だった!」
興奮して話す少年に、他の少年たちが、「へえ!」「すごいな!」と感心しながら話を聞いている。
「仙人の大人と一緒に、俺も仙術を使って協力したんだ!!」
「仙術で攻撃できたか?」
「もちろんだ! こう……俺の炎で蚩尤の鼻っ柱を焼いて……!」
だいぶ誇張がありそうだ。
残念だけれども、この少年の仙力では、まだ蚩尤にダメージを与えられないだろう。きっと、大人の仙人が、少年を庇って蚩尤を追い払ってくれたのだろう。
自分達とそう変わらない年齢の少年の武勇伝は、少年達の目を輝かせる。
「なあ! 行ってみようぜ! 国境!!」
興奮冷めやらぬ少年の一人が、そんなことを言い出す。
「え……でも、もう蚩尤はそこにはいないぜ?」
「でも、ひょっとしたら、また現れるかもしれないだろう?」
「そ、そんなの危険だよ! やめとこうよ!!」
私は慌てて少年達を止める。
本当に蚩尤が現れたら、大変なことになる。
「大丈夫だって! 現れても、これだけの人数がいれば、追い払うくらいはできるだろ?」
誇張の入った武勇伝を信じてしまっている。
自慢していた少年は、今更、大げさに言ってしまったなんて言い出せずに青い顔をしている。
「大丈夫! ちょっと現場を見てすぐ帰るから!!」
「どうせ、蚩尤なんてそんな頻繁には現れないって!」
どうやら少年たちは、止まらない。
これは……困ったな。
少年達だけで危険な場所に行かせる訳にはいかない。
私は、蚩尤が本当に現れませんように。と、心から願いながら、少年たちの後をついて、国境へと向かった。
大人に見つかれば叱られて連れ戻されるから。
そんな理由で、茂みと抜け、塀の上を渡り、まるで猫になったかのような道を、私は少年達と一緒にすすむ。
「ほら、手を貸してやるから!」
一番年下だと思われている私を、少年たちは手助けしてくれる。
「怖かったら、俺たちが守ってやるからな!」
少年の言葉に、私はコクンと首を縦にふる。
自慢していた少年だけが、相変わらず青い顔をしておどおどしている。
よほど蚩尤が怖かったのだろう。
「なあ……やっぱ、やめようぜ? 何かあったら困るし」
あれほど、俺の技が蚩尤に利いたと自慢してのに、国境が近づけば、少年は我慢できずに仲間にそう進言する。
「そうだよ。もう帰ろう?」
私もここぞとばかりに、撤退するように言う。
何事もなく帰れるなら、それが良い。
少年は、六人。この人数を、私一人で守るのは、とても大変だ。
「なんだよ。せっかくここまで来たのに」
「あと少しで、国境……」
禍々しい気配がする。
こういう時って、どうしてこうあって欲しくないって予感が当たってしまうのだろう。
私たちの目の前に、大きな黒い影が産まれる。
蚩尤は現れた。
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