第28話 聞き込み
水月は、こちらにまた目を向ける。
先ほどよりもこちらに視線を向けている時間が長い気がするのは気のせいだろうか。
せっかく話を手紙の内容に持って行ったのに、ここまでにしておくべきだろうか。
これ以上話を聞いていては、正体がバレてしまうだろうか。
「……それが、そう簡単な話ではないのだよ」
「そうですか。それは何故でございましょうか」
良かった。こんな風に話してくれるということは、まだ正体はバレていないということだろう。
少し安心した。
「桃華の魂の片割れとも言える、双子の妹の魂は……」
「魂は……」
「この水月の視たところ、蚩尤の国にあるようなのだよ」
え、蚩尤の国?
それって大丈夫なのだろうか?
そんなところに迷い込んでしまったのならば、私の妹は、とっくの昔にまた亡くなって、どこか他の場所へ転生してしまっているのではないだろうか。
しかし、水月が蚩尤の国に妹がいると視たのならば、まだ蚩尤の中にいるということか。
蚩尤の国。そんな恐ろしいところで、どんな風に生き延びているのだろう。
まさか、幽閉されている?
それとも、ひっそりと隠れて、震えあがっている?
いずれにせよ、助け出してあげないと可哀想だ。
「蚩尤の国に……どうやったら、その蚩尤の国に紛れ込んだ者を戻すことができましょうか?」
「さてな……」
やばい。完全に疑われている。
私に向けられた視線の圧がすごい。
「すみません。ちょっと聞きすぎてしまいましたね。失礼いたしました!」
これ以上は駄目だ。
私は、慌てて水月の部屋を出る。
妹の魂は、蚩尤の国にある。
それがわかっただけでも、大収穫だ。
これ以上は、良くない。
バタバタと走って私は、水月の部屋を離れた。
廊下を何回か折れて、一人暗がりで立ち止まって息を整える。
どこかに滝があるのだろう。
水が落ちる音が耳に届く。
さすがは、青龍を眷属とする東王父が支配する国。
静かに心を澄ませば、水の気配を感じられる。
水音と一緒に聞こえてきたのは、胡弓の音。
私の記憶が知っている。
これは、水月の奏でている胡弓だ。
胡弓の音。
昔、私がちゃんとした西王母桃華だった時に、東王父である水月と過ごす時間で、よくこの胡弓を聴いた。
胸が自然と締め付けられる。
本当に、何があって、桃華は水月に殺されたのだろう……。
とても物悲しい音色。今、水月のどのような心を載せているのだろう。
何を想って、胡弓を弾いているのだろう。
妹を取り戻し、桃源郷を元に戻せたならば、その時には、その全ては明らかになるのだろうか。
私は、焦る気持ちを抑えて、下男たちが休む控えの間に向かってトボトボと歩き始めた。
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