第25話 出し抜く

 そんな協力なんてどう頼めば良いのよ。

 先代桃華を殺した張本人。それが、東王父である水月ではなかったか。


 殺したことに関しては、なにやら事情がありそうな口ぶりだったけれども、私の魂の欠片である妹を探す手伝いを、一体どのように頼めばよいのか。


 出来れば、水月には明かさずに妹を探し出したい。

 水月が何を考えているのか分からない以上、水月を信頼するのは危険。

 いつ水月が私に牙をむいてきても対処できるように、向こうがこちらを侮っている間に、力を取り戻したい。


「そんなことを言っても、水月様にしか分からないことですから」

「どうしてよ?」

「いいですか? 桃華様が生命を司る力を持つように、水月様もまた生命を司る力をお持ちなのです。それは、対極の力であります。桃華様の力が『息吹いぶき』、水月様の力は『絶息ぜっそく』……つまり息絶える、死です。ですから、桃華様の妹の魂の行方も、水月様なら辿れるのです」


 西王母の力も、東王父の力も、どちらも唯一の力にして、対極の関係。

 うーん。

 では、何か理由をつけて、東王父を騙して探させることができないだろうか。


「桃華様が、そんな小さな姿で転生なさるからそんな事態になるんですよ? 桃華様が完璧な状態で転生なされたら、ご自分で探せるのに」


 待って、長牙よ。それはどうよ? 

 そもそも、私が完璧な状態であれば、妹の魂を探す必要がないじゃない。

 

「……そうよね……東王父は、桃華の状態を気には留めていたのよ。早く大きくなれって言ってたし」


 その言葉の裏に何があるのかは知らないが、興味はあるわけよね? きっと、私の妹の行方も。


 じゃあ、そこをついて東王父に探させる方法は、無いわけではない気がしてきた。


「長牙、東王父の国のことを教えてくれない?」

「うわ……なんだか嫌な予感がするのですが。何か、無謀なことを考えていらっしゃませんか?」


 長牙が露骨に嫌そうな顔をする。


「仕方ないでしょ? どうにかして妹の魂の行方を探らなければ、私の力は戻って来ないんだから」


 もし、妹が先にこの世界に転生してきているなら、協力してこの現状を打ち破れるんじゃない? だって、仲の良い姉妹だったんだし。

 姉妹で仲良くこの桃源郷を守れば良いのよ。

 ああ、早く会いたくなってきた!


「長牙! ほら、早く教えてよ!」

「何そんなにやる気になっていらっしゃるんですか」


 嫌がる長牙を説得して、私は、東王父の国について教えてもらう。


「いいですか、東王父は、仙人の王。渤海ぼっかい湾にある、蓬莱ほうらい方丈ほうじょう瀛洲えいしゅうの三神山を治めております」


 ええっと、大きな湾の中にある三つの山を治めているってことかしら?

 さすがに青龍を使役しているだけあって、住んでいる世界も水に関連している場所なのね。


「そこで修行する仙人達は、やはり桃源郷の仙女のように、火・水・木・金・土の力で仙術を使います……」


 長牙の説明をひたすら聞いて、私は、東王父の裏をかく方法を考えた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る