第24話 崑崙山の仙女達

 崑崙山から仙女達が帰ってくる。

 仙女達を守って一緒に立ち去ってしまった大仙女二人。

 土の仙女石榴と金の大仙女稲妻。

 その二人が帰還すれば、桃源郷の安全は、十分に保たれる……はずなのに、どうして帰って来ないのか。


 あれから何日も経つのに、一向に仙女達は、崑崙山から帰って来ない。

 やはり、私の力が及ばず、桃源郷に桃の花があふれていないのが原因なのか。

 

 蚩尤の攻撃は止まず、長牙と一緒に、蚩尤退治に明け暮れる日々。


 おかげで、炎花と睡蓮、蓮華も、とても忙しい。

 三人で何とか交代で早春の門を守ってくれているが、これでは疲れてしまうだろう。


 今日も蚩尤を退治して帰ってきた私に、忙しい睡蓮から預かっている蕨が駆け寄ってくる。すっかり仲良しになったのだ。


「桃華様、桃華様! 見て下さい!」


 蕨がウサギのぬいぐるみに新しい服を着せて遊んでいる。

 可愛い。ウサギも可愛いけれども、そうやって遊ぶ蕨が可愛い。

 

 妹みたい! 

 ……妹?


 ――あれ? 私、妹がいた?


 突然に流れこむ前世の記憶。

 

 ――美華みかちゃんこれ!

 

 そう言って、私と同じくらいの年齢の女の子に渡されたのは、四葉のクローバー。

 あっちにもあったのよ!

 待って! 桃李とうりちゃん! そっちは……なんだっけ?


「? 桃華様? どうなさいましたか?」


 きょとんとした顔で覗き込む蕨。

 いつの間にか私は泣いていたようで、涙が頬を濡らしている。


 ――そうだ。私の名前は、前世は美華だった。

 

 そして、私には、幼い頃に双子の妹がいた。

 あの子は、桃李は、どうしたのだろう。

 大人になった私には、もう妹はいなかった。

 あの時にもらった四葉のクローバーは、とても大切な思い出の品として、しおりに挟んでいた。


 とても仲の良い双子の姉妹だった。

 一卵性双生児で、文字通り同じDNAから、誕生した二人。

 いつでも一緒で、本当に二人で一つだった。


 ――失ってしまった私の魂の片割れ。


 あの子は、こちらへは転生してこなかったのだろうか?

 どうして? 

 早死にしてしまったから?


「長牙……」

「どうしましたか? 桃華様」

「こちらに私のように転生するはずだった魂が、若くして亡くなったら、どうなるの?」

「えっと……どうでしょうかね。桃の実に見つけられる前に、桃華様が死んでしまった場合ですよね?」


 長牙が考え込む。


「色々考えられますね。そのまま、桃源郷の気配に引っ張られて、この世界のどこかに一般人として誕生するとか、向こうの世界でもう一度命をやり直すとか……最悪なのは、ですね……」

「何?」

「蚩尤の世界へと転生して、そこから出られなくなってしまう場合もあります」


 蚩尤の世界。

 あの邪悪そうな魔物の世界に迷い込んでしまうことがあるのか。


「ですが、桃華様は、こちらの世界にちゃんと、『西王母桃華』として、無事に転生なされたではありませんか。何を心配なさっているんですか?」


 不思議がる長牙に、双子の妹が前世でいたことを説明する。

 

「もしかしたら、私がちっこい事と、関連しているかもしれないと思って」


 一卵性双生児の双子。

 これは、魂を分けた片割れ。別の人間でありながら、同じ存在。


「ふうん。有り得ますね。しかし、その片割れをどうやって探すかですが……、残念なお知らせがあります」

「何?」

「東王父様のお力を借りざるを得ないのです」


 長牙の言葉に、私は、膝から崩れ落ちた。


 

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