第15話 トネリコ
炎花に叱られて、木霊がムッとしている。
「だって、せっかく桃華様にお会いできたのですから、色々とご挨拶を述べたいではないですか! 蓮華様のお言葉とともに、我々木霊といたしましても、歓迎の意を述べたいのです」
ていうことは、盛ったんだ。蓮華の言葉そのままではなく。
通りでやたらと仰々しいと思った。
「いいから! 結局蓮華は会う気があるのか、ないのか!」
「その部分ですか? あともうちょっとご挨拶してから申し上げようと思いましたのに。相変わらず炎花様は、せっかちで落ち着きがない。そんなでよく大仙女に成れましたね」
「ほう……お前、炭と化したいようだな」
炎花の右手に火が灯る。
「わ! ちょっと! 炎花!」
「大丈夫ですよ。桃華様。そこの緑色の虫だけを焼いて、桃華様の可愛らしいお手は、一切傷つけませんから!」
いや、そういう問題ではない。
「わ、分かりましたから! 先に述べますと、お会いできませんって、蓮華様はおっしゃっていました!」
「何でだよ!」
「だから、炎花様が急ぎ過ぎるからそうなるんでしょ? ちゃんと人の話を聞かないと、結局二度手間三度手間……」
「ああ?」
「蓮華様には、その場を離れられない事情があるのです」
何だろう?
「蓮華様の大切にしておられたトネリコの木。その木が枯れかけているのでございます」
「え? それなら、私が行く方が良くない? 行けば、元気にしてあげられないかしら?」
私の力は、そういう力のはずだ。
トネリコの木がどんな状態なのかはしらないが、力になってあげられないだろうか。
「それは……有難いお申し出でございますが……その……たぶん無理かと思います。実は、蚩尤に散々に折られて虫の息。もはや材木に近い状態にございます」
蚩尤に追われていた大仙女蓮華。トネリコは身を挺して、大仙女蓮華を隠したのだと。木霊は泣く。
「蚩尤がトネリコ様の胴体をバリバリと打ち破っていく様には、周囲の木も悲鳴をあげておりました。かつて大仙女蓮華様が守った苗木。それが成長して、蓮華様をお守りして果ててしまったのです。見守ってきた苗木の死に、蓮華様の悲しみも
木霊の言葉に、炎花は悔しそうに歯を食いしばる。
早春の門を襲撃された現場にいたのは、火の大仙女炎花と、金の大仙女稲妻だ。
「なので、桃華様。蓮華様の心が落ち着くまで、少し待っていていただけませんか? 蓮華様は、心落ち着かれれば、きっと桃華様とお会いになると思いますので」
それだけ言って、木霊は消えた。
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