第14話 木霊

 木の大仙女を探す。

 そのことに関して私は、実は自信がある。


 だって、私の仙術は、生を司る仙術で、生き物……特に植物に力を与えて育成を促す力。

 蔦は伸び、花は咲き、根は生え広がる。怪我を直したりそういう癒しの力を発揮し、死の存在である蚩尤の力を挫く。


 だから、植物に聞けばよい。

 この桃源郷の植物に尋ね聞けば、木を司る大仙女の行方が分からないわけがないはずだ。


 私は、王宮の外に出て、植物に問いかける。


『木の大仙女を探して。大仙女に桃華が探していると伝えて』


 葉はざわめき、そのざわめきはやがて桃源郷全体に広がる。


「見つかるでしょうか? もし、木の大仙女様が出て来たくないというご意志をお持ちなら、木は大仙女様を隠してしまいはしないでしょうか?」


 長牙なぎが、不安気な表情を浮かべる。

 その可能性は、確かに無い事も無い事も無いような……でも、そんなの言っていたら、何も始まらない。やれることは、やってみるべきだ。


 木のざわめきが一通りして静まって、風の音だけが、周囲に踊る。


「何も……起こりませんね?」


 青鳥が、つぶやく。


「しっぱい……しちゃったかな?」


 私は、ちょっと自信がなくなる。

 耳を澄まして遠くに聞こえるのは、とびの甲高い声。

 わあ、人間界と同じ鳥が仙界にもいるんだねって、感慨深く思っている場合ではない。木々が、桃華が探していることを、木の大仙女に伝えてはくれているはずだ。


 それが、返事がないということは、本人が会いたくないと考えているか、会いたいと思っても会えない状態にあるか。

 えっと、ひょっとしても桃華、嫌いだった? 先代の桃華と因縁的な物があったとしたら、そりゃ、その生まれ変わりの会いたくないよね?

 どうしようか。自信あったのだけれども、駄目だったか。


「めんどくせえな。このクソ植物ども! 燃やすぞ!」


 炎花がイラつく。

 おい、それは乱暴だと思う。

 林の木々に火を付ければ、大火災になっちゃうでしょうが。

 

「ヒエッ!」


 小さな悲鳴が、木々の間から聞こえる。

 ひえ……?

 出てきたのは、小さな人型の緑の……小人?


「ちっちゃ。誰?」


 私の手にピョンと載って、


「お初にお目にかかります。この桃源郷の木の精霊を代表いたしまして、新しい西王母様にご挨拶を申し上げますは、木霊こだまりょくでございます」


 恭しく頭を下げる。


「木の大仙女であらせられる蓮華れんげ様からのご伝言をお伝えいたします」


 緑は、コホンと咳ばらいを一つ。


「えっとお……転生おめでとうございます。桃華様がこの桃源郷に戻られたこと、とても嬉しく思います。桃華様が戻られたことにより、この桃源郷がまた勢いを取り戻し、早春の門を奪還することで、きっと仙女達の力が戻り、崑崙山へ落ち延びた仲間が戻ってくることを信じております。私、木の大仙女、蓮華といたしましても、桃華様を微力ながら応援していきたいと思う次第です。それから……」


「長い! なんだその超ウザい前置きは! どっかの爺の挨拶か?」


 炎花は気が短い。

 だが、炎花の言うことも分かる。私も手短に聞きたい。



 

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