第12話 先代桃華の殺害

 先代の桃華を殺したのは、東王父。

 それのどこが有り得ない話なのだろうか?


「確かに、東王父様なら、桃華様も油断する。しかし、そんなことは有り得ないだろうが! だって東王父様は、桃華様の伴侶であらせられるのだぞ? 仲睦まじく、この仙界を統べておられた! そして今だって、桃華様の不在の仙界全体を案じて統べて下さっている!」

 

 炎花がいきどおる。

 東王父とは、先代西王母の伴侶だったのか! そういう話は、ちゃんと教えておいて欲しい。その伴侶である東王父が、西王母を殺すってどういうことなの? 私は、混乱する。


「私だって、そう思いますよ! でも、そう私も父から聞いたんです!」


 長牙がグルルと苛立ちながら炎花に言い返す。


「私は、この目でその光景を観ました。東王父様が、桃華様に術をお掛けになられて……」


 青鳥が口に手を当てて辛そうにしている。

 目に涙がにじんでいる。

 とてもショックな光景だったのだろう。

 私が青鳥の背を撫でてやれば、青鳥は、少し気持ちを持ち直したのか、微笑んで私の頭を撫で返してくれる。


「ともかく。それは東王父様に確認しなければならないことです。しかし、桃華様がこのように幼い姿であらせられるのですから、不用意に東王父様を訪ねて、もう一度桃華様が殺されてしまうことになっては、危険だということも付け加えます!」


 長牙の言葉は、もっともだ。

 幼い姿で記憶も曖昧な私。仙術のまだ力が弱くてそれほど使えない。


 あの、夢の中で見た、先代桃華の『ごめんなさい』の意味も分からない。


 こんな状態で東王父とやらに会っても、悪い結果しか想像できない。あの超絶美女の先代桃華の伴侶。え、きっとイケメン? とっても気にはなるのだが。


「今、我々のすべきことは、大仙女様達の知恵をお借りしながら、桃華様が健やかに成長されるように尽力すること。桃華様に、この世界を知り、蚩尤を倒す力を取り戻してもらう事。そして、次に、早春の門を取り戻し、仙女様達の力を取り返すこと。東王父様の件は、その次です!」


 長牙の言葉に、炎花が椅子を蹴って、クソッ! と、叫ぶ。

 椅子は憐れにも、壁にぶち当たって木っ端みじんになってしまった。


 しかし、これはどうしようもない。いきなりラスボスの城へ行っても、攻略は出来ない。私の力が蘇り、仙女達の助けがなければ、もし本当に東王父が桃華を殺害したのであれば、たちまち私は殺害されて、この桃源郷は、また西王母桃華を失ってしまう。そうなれば、睡蓮や炎花のような仙女だけでなく、蕨のような弱い民は、蚩尤にいいように蹂躙されて酷い目にあう。


 しかし、とても気の長くなる話。この幼い身の私が、どうやってそんな力を付けたら良いと言うのか。


 



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