第11話 ジャスミン茶

 蚩尤を丸焦げにして倒した後。

 私と炎花を乗せて長牙が飛ぶ。


「重いです。自分で飛んでくださいよ」

長牙がブツブツと文句を言う。


「うるさいな。この駄目猫。シッポ焦がされたくなかったら大人しく飛べ!」


 ペシンッと炎花が長牙の背を叩く。

 炎花の住んでいた家は、ものの見事に蚩尤に潰されてしまった。私が植物で家を造ろうかとも提案したのだが、炎花の火の力では、火災を引き起こしかねないということで、それは却下。結局、私が今住んでいる王宮に炎花も住むことになったのだ。


「今、この桃源郷にいる大仙女はあと一人です。金の大仙女、稲妻様。それに土の大仙女の石榴ざくろ様は、崑崙山に昇ってしまいましたし。木の大仙女の蓮華れんげ様だけが、この桃源郷の植物たちとは離れがたくてひっそりと隠れ住んでいます」


 長牙が説明する。

 ふうん。『木』を司る仙術を使う大仙女だから、植物を大切にしているのだろうか? それならば、私の使う仙術とも少し似ている? 一度お話してみたい相手ではあるが、隠れているならば、まず探し出さなきゃいけないのかも。


「おい、誤魔化すな。長牙! お前には、話してもらわなければならないことがあるんだよ」

炎花が、長牙に凄む。


 炎花が知りたいのは、先代の桃華の死の秘密。

 長牙は、仙女の長である西王母である桃華が、命を失うことになったのは、騙し討ちにされたということを言っていた。


「ちょっと、待って下さいよ。私だって分かんないんですってば! 騙されたと父に聞いて。その内容も曖昧なんです。今から帰るのですから、青鳥の話も合わせて考えましょうよ。もう! 炎花様は、ちょっと短気過ぎです!」


 長牙が慌てる。

 目の前に王宮が見えてくる。


「桃華様! おかえりなさい!!」

青鳥が飛んでくる。


「あら、炎花様も? じゃあ、お茶の準備を増やさなければ」


 私をなでなでと撫でた後、パタパタと青鳥は準備を始める。

 机の上に用意されたのは、ジャスミン茶。

 ほんのりと爽やかで甘いジャスミンの香りが、蚩尤との戦いで疲れていた体を癒してくれる。


「そうですか。では、炎花様もここにお住まいになるのですね。賑やかになりますね。よろしくお願いします」

青鳥が、ペコリと頭を下げる。


「ああよろしく頼む」


「青鳥。先代の桃華様の崩御について、炎花様は聞きたいんだそうだ」

長牙が口を挟む。


「わっ! どうしてそんなことになっているんですか! 長牙! その話は、桃華様がもう少し大きく成長されて、記憶を取り戻されてからだって言ったじゃないですか!」

青鳥が、ムッとする。


 そうだったんだ……なんかごめん。

 でも、やっぱり知りたい。


 仕方ないですね……と言いながら、青鳥が話し出すのを、私達は待った。


「私と長牙も、全てを知っている訳ではないんです。ていうか、私達の知っているのことを聞いても、もっと混乱してしまう気がします」


「というと?」

炎花が、ジャスミン茶をグイッと飲み干しながら尋ねる。


「だって。桃華様を殺したのは、東王父様なんです」

青鳥の言葉に、炎花が驚いて茶器をポロリと落とす。


「そ、そんな有り得ない……」

炎花の声が震えていた。


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