第10話 業火
蚩尤が私達を探して辺りを見回している。
「ギャアアアア!!!」
蚩尤が叫びながら周囲の木をなぎ倒す。動けず物言わぬ木々は、いら立った蚩尤の攻撃でいともあっさりと倒されていく。
「こっちよ!」
長牙に乗った私が蚩尤を誘導する!
蚩尤は私達についてくる。
「ついて来たわ! 良かった!」
「本来蚩尤は本能で動き、それほど頭はよくなですからね。獲物を見つけたら、そりゃ追いかけてきますよ」
長牙に言われて、私は、炎花の言葉を思い出す。早春の門を襲った時の蚩尤は、統率のとれた軍であったと炎花は言っていた。今目の前にいる蚩尤に、そんな芸当が出来そうにはない。
……ということは、誰かが蚩尤を操って早春の門を閉じさせてたのではないか? どうして? それは、仙女達の力を弱めるために。……それは何のために?
「桃華様! 桃華様ったら! 考え込まないでちょっとは手伝って下さいよ!!」
「え? そうだった!! ごめん!」
つい考え込んでしまったが、今は蚩尤と対決しているところだった。
長牙が蚩尤の攻撃を回避しながら必死になって飛んでいる。
私は、自らの仙術を蚩尤にぶつけてみるが、あまり効果はない。一瞬怯んで、それで終わり。
まだ、炎花の技の方が、蚩尤にはダメージを与えられているのではないだろうか?
やっぱり、この小さな体では、かつての桃華のような大きな力はまだ使えないようだ。? あれ? どうして私は、かつての桃華の力が大きいってことを……。
「だ~か~ら~!! 考え込まないで、戦いに集中!!」
すぐ考え込んでしまう私に、長牙がため息をつきながら睨んでくる。
悪かったってば! でも、やっぱり気になるじゃない?
「桃華様! 準備が終わりました!」
炎花が目指す場所から声を掛けてくる。
私たちは、炎花のいる方向を目指して飛ぶ。
獲物が増えて、嬉々として蚩尤もこちらへ追いかけてくる。
だが、甘い。お前は空を飛んでいない。
私たちは、蚩尤を崖の傍まで誘導する。
突然、蚩尤の載った地面にポッカリ穴が開いて、蚩尤の体はそこに落ち込む。
この穴は、私が植物の根を利用して掘ったもの。
当然、蚩尤はもがき暴れてその穴から脱出しようと試みる。
穴の下に敷いた枯れ枝が、蚩尤に乱暴に踏まれてポキポキと音を立てて折れている。
「今よ! 炎花!」
私の合図と同時に崖の横の穴の入り口に炎花が火を放つ。
火は、穴に敷き詰められた枯れ枝に移り燃え広がる。
「長牙! 風を!」
長牙の放った暴風が、炎花の火を捕まえて、穴の奥、蚩尤が落ちた竪穴へと広がっていく。
風の力により火焔となった火は龍のように勢い強く穴の中を駆けまわり、蚩尤の体を巻き込んで縦穴を上り暴れまわる。
これは、陶芸の窯や古代の製鉄の窯の仕組み。
火事の場合には、この仕組みによって恐ろしい被害が出てしまうのだ。
今、蚩尤の体は、鉄をも溶かす勢いの炎がその体を焼いているはずだ。
断末魔をあげて、蚩尤は黒焦げの炭となって崩れ去った。
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