第3話 あら、可愛いじゃない
鏡をのぞけば、自分の姿が映る。
ほんのりピンク色の髪、天女のような衣装に若草色の帯が可愛らしい。
大体……五、六歳?
幼い少女の見た目。黒い大きめの瞳の女の子。……可愛いじゃない。
「ご自分のお姿、どうですか?」
長牙が後ろから寄ってくる。
機嫌が良いのか、ゴロゴロと喉が鳴っている。
モフモフだし、こんな風に喉を鳴らしていると大きな猫にしか見えない。
私が手を伸ばして顎を撫でてやれば、気持ちよいのか目を細める。
「何? 長牙ったら、桃華様に甘えて!」
青鳥が笑う。
「それは?」
「ふふ。桃華様に喜んでいただこうと思いまして、『がとうしょこら』なるものを、作ってみました! えっと、ミルクの脂肪分を泡立てたクリームをほんのり甘くして、木苺を散らしてあります!」
ドヤ顔する青鳥。
テーブルの上においてくれた物は、確かに桃華が青鳥に話したケーキに似ている。
食べてみれば、ふんわりした生地にはちみつの甘みのほのかなクリームがかかっている。木苺の甘酸っぱい味は、クリームに合っている。
カカオが手に入らなかったのだろう。生地の味わいは少し違い、黒糖を混ぜた風味がするが、それでも青鳥が努力してくれたのが十分分かる。
「ありがとう! すっごく美味しい!」
私がお礼を述べてニコリと笑えば、青鳥が心から嬉しそうに満面の笑みになる。
長牙も青鳥も、これほどまでに良くしてくれるのは、きっと、私の前の桃華がよっぽどカリスマ性のある西王母だったからだろう。
どのような人物なのか気になる。
私は、その西王母として、この国で役割を果たさなければならないはずだ。蚩尤だのなんだのと長牙に言われたが、まだピンと来ないのだ。
「西王母様が崩御されて、この国はすっかり寂れました。以前は、もっと栄えて、仙女たちが大勢おりましたのに」
長牙が、ため息をつく。
十分穏やかな国に見えたのだが、違うらしい。
長牙によれば、この国は、仙女が守り蚩尤の横暴から国民を守っていたのだそうだ。
その仙女を束ねる長が、西王母。西王母は、蚩尤のだまし討ちにより命を落とすことになったのだそうだ。
しかし、占いの得意な仙女が、西王母・桃華が転生して戻ってくると予言した。
人間界に流した、桃源郷の桃の実が、いつか桃華を必ず見つけて、この国へ連れ戻すと。
えっと、じゃあ、あのコンビニで売っていたのは、桃源郷の桃だったんだ。何故だか気になってしまったのは、桃の実が私を桃華だと見出して呼んでいたから?
そんな不思議な話が……。
しかし、現在このように、少女としてここに居るのだから、それは信じざるをえないのか……。
「私は、どうすれば良いの? 何をするためにここに来たの?」
私は、長牙と青鳥にそう尋ねた。
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