箸休め(その玖):豚汁はエネルギーの源!
入らない。入れられない。
これ以上、何も。
頭にも、心にも、お腹の中へも。
でも、何か入れなきゃ。何か、何か。
エネルギーとなるものを――――
二ヶ月前に急遽受けることが決まった、仕事に関連する試験。
普段の業務に関わるものとは言え、専門分野の知識が問われ、さらにかなり昔に勉強した内容については頭の中に残像すら残されていない。
しかも、どんな形式の問題が出るのかもわからないため、この二ヶ月間は必死になって膨大な量の知識を一から入れ直すことと、過去問をひたすら解きまくる作業に没頭していた。
仕事終わりに、ほぼ毎日二時間から三時間。
ストレス解消として始めた大好きな執筆活動も泣く泣く中断し、休日も返上で勉強を続けてきたが、やはり齢には勝てず。
記憶力は確実に衰え、昔は自動的に入れることが出来ていた用語の数々は、無理やり押し込んでも、するりするりと抜けていく。
そして、試験日まで残り一週間となったところで、気力、体力、精神力がほぼ枯渇してしまう状態になってしまった。
脳が全く働かなくなり、何をしようにも気力が湧いてこないのだ。
しかも、食欲さえも湧きにくくなり、ようやく手に入った今年の新米も深く味わうことができなくなっていた。
まずい。非常にまずい。
嗚呼。人間、短期間に急激な無理をすると、こんな風になってしまうのか。
とにかく、残り一週間。何とか体力を回復し、試験を乗り切るエネルギーを入れなくては。
パッと簡単に作れて、お腹に入れやすいもの。
それでいて美味しく、朝から活力を生み出すことができるもの。
自分にとって、エネルギーの源になるもの。
――――そうだ。豚汁。豚汁を作ろう。
そう思いつくと、テーブルの上に開いていた無数の参考書を全て本棚に片付け、冷蔵庫と野菜室にある材料を確認する。
豚肉、お味噌、玉ねぎ、人参、じゃがいも、ごぼう、大根、その他諸々。うん。必要な材料は揃っている。
キッチン戸棚からいつもの小鍋ではなく、大鍋を取り出し、出汁を取る作業を始める。
そこへ、豚肉とありったけの野菜をぶち込み、後は具材を煮立てて味噌を入れるだけ。
本当は、先に具材を炒めた方が風味が出るのだが、できるだけ作る工程を減らし、短時間で完成させるために、今回は省略。
あっという間に大鍋いっぱいの豚汁が完成し、炊き立てつやつやの新米と共に、口の中へと放り込む。
ふわりと立ち上る湯気とともに、味噌の香りが鼻から体全体へ浸透する。
こくりと一口飲んだ汁は、たくさんの野菜と豚肉が調和した旨味に包まれ、さらに、甘味も一緒に喉の奥へと通過していく。
そして、そこに追加されるのは、粘り気のあるモチモチとした食感の米粒の数々。
他のおかずは、いらない。これだけで全てが満たされ、エネルギーが湧いてくる。
困難を乗り切れる、自分にとっての大きな源。
「…………はぁ。美味しい」
ということで、試験前の一週間はほぼ豚汁で乗り切った自分。
改めて、食材一つ一つの旨味に感謝。
『じっくり、噛みしめながら、いただきます』
*試験は無事に(……かどうかは不明ですが)、終了したので、これからようやく中断していた執筆活動を再開します〜。もう試験は受けたくない!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます