十六膳目:六月某日(金)紫蘇入りお茶漬けがマイブーム

 ゲホゲホゲホ……。


 リビングと二階の個室から絶えず続く、喉から訴える音。

 熱はないのに、咳と鼻水、喉の焼けるような痛みがなかなか治まらない。


 最初の危険信号は、我が家の寝ぼすけ坊主からだった。

 新一年生による演劇部の初公演が無事に終わり、ぴんと張り詰めた緊張感が一気に抜けたのだろうか。

 公演翌日から寝ぼすけ坊主の喉の調子がおかしくなった。

 で、その次は自分。最後は連れ合い。

 念の為医療機関で感染症の検査を受けたが、全て陰性。

 しかし、喉の痛みはなかなか引かず、口に入れる物は刺激物よりも優しい味の物を自然と求めるようになった。


 そして、今回の体調不良の期間中に最も好んで食べたのが、『お茶漬け』だ。

 本当であれば、白出汁を引いて作るのが好きなのだが、体が言うことを聞かず、出汁を引く余力もなかったため、今回は市販のお茶漬けの素を活用。

 しかし、お茶漬けを食べるなど、いつ以来のことだろうか。

 そもそも、これは我が家の寝ぼすけ坊主からのリクエストだったのだが、普段はお茶漬けを食べる習慣がなかったため、数年ぶりと言っても過言ではないくらいご無沙汰している代物だ。


 ほかほかの炊きたての白飯の上にお茶漬けの素をぱらりと振りかけ、さらにその上には、じじばばが畑にドサリと植えている紫蘇、緑色の大葉の部分を千切って乗せる。後は、熱々のお湯をかけて完成。

 少しでも食欲が出るように紫蘇入りお茶漬けにしてみたが、大葉をちぎる段階で爽やかな香りが広がり、鼻の奥まで刺激してくる。

 より香りが出るように、手のひらでパンッと二回ほど叩いてから葉を千切るのがオススメだ。


 このお茶漬け効果なのか、紫蘇効果なのか、これを食べ続けてからだいぶ喉の調子も戻ってきた感じがする。

 お茶漬けの素は、しばらくは常に買い溜めておこう。

 そして、まだまだ大量に採れるじじばば畑産の紫蘇。他の料理にも大活躍してもらうことにしよう。

 紫蘇入りチーズオムレツに、ハムとチーズを紫蘇で巻いた春巻き。紫蘇入りの甘辛いつくねに、紫蘇の肉巻き。はてさて何から作ろうか。



「――、おはよう。喉は大丈夫? ご飯ですよ」



 今日も元気に、いってらっしゃい。




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