箸休め(その壱):今年度のふりかえり
夜の九時半。ああ、もうこんな時間だ。
仕事から帰ってきた連れ合いと本日最後の雪かきを終えると、ホッと一息、肩の力を抜く。
冷えた身体を今すぐにでも湯船につけて温めたいところだが、もうひと仕事残っている。
茹でたキャベツにプチトマトを添え、作り置きの金平牛蒡と斜め切りした魚肉ソーセージを反対側へ飾り盛り。後は、明日の朝に子持ちししゃもを魚焼きグリルで焼いたら朝ごはんおかずワンプレートの完成だ――
今年度も、あと僅か。自分にとって一年のうち、三月後半から四月の中旬までだけが、時間にゆとりを持って仕事の振り返りや整理を行うことができる。その年度の全ての業務準備ができる、貴重な日なのだ。数日後には新しい年度が始まり、また慌ただしい日々の波がやってくるだろう。
今年度は、本当に忙しい日々だった。ただでさえ一人職の仕事なのに、業務量は年々右肩上がり。十数年前に配属された頃から比べると、現在の業務量は約三倍にはね上がっている。身体も心も、疲労困憊だ。
そんな毎日を過ごしていた一年間だったが、今年最も記憶に残っていることと言えば、やはりあの『十二月の大雪』だ。
あの日は、本当に大変だった。普段から雪がよく降る地域なので、深夜にロータリー除雪車はフル稼働し、道路には消雪パイプもある。しかし、大雪になったのは最悪の月曜日。深夜から早朝にかけて大雪になると、駐車場の雪かきが間に合わない。そうすると、朝自宅から車を出すだけで大変。会社の駐車場の除雪も間に合っていないため、やむなく路肩に止めて手掘りで雪かき。そうなると、必然と道路も大渋滞になり最悪なのだ。今年度は、そんな大変な雪の状況が何度か続いたので、朝からヘトヘトだった記憶しかない。
こんな状態だったため、普段は車で三十分かからない道のりが二時間以上かかってしまった。職場の同僚は、一晩車中泊だったとか。いつもの時間で朝ごはんを準備など、とても出来ない。
そのため、この冬は前日の夜に、翌日の朝と夜の食事の仕込みをする羽目となった。
深々と積もる雪を見るのは嫌いではないが、あんな状態になるのはもう懲り懲りだ。今年の冬は程々にしてもらいたい。
一年を振り返り、また新年度に向けて気持ちを整えよう。あの日のように、甘く、ホッとできるものを飲みながら。
……ああ、朝ごはんの準備はできたが、夜の仕込みがまだ出来ていない。メニューは何にしようか。この大雪で、いつも利用しているスーパーにはパン、牛乳、鶏肉など多くの食品が搬入されておらず、我が家の冷蔵庫も空白スペースが広がっていた。
カレーにしようか。
お好み焼きにしようか。
寄せ鍋にしようか。
とりあえず、全身冷え切った身体を温めるために、甘いココアを飲もう。
『ゆっくり、ホッコリ。いただきます』
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