鬼と少年3
その日の午後、鬼の村でひたきや他の患者の
水で
勇太は山へ一人で来たことをかすみには知られたくないだろうが、
子供が一人で山を歩くことは危険なことだからだ。
「勇太がひとりでここに来たの? どうして?」
かすみは困惑している。
鬼も、山も恐れている勇太がなぜ一人で烈火の元を訪ねたのか分からなかったからだ。
「かすみに告げずに一人できたくらいだ、
「そうね……勇太のこと叱らないでおくわ。確かに最近、あまり話す時間もなかったし」
「お前も俺のところに来たり、往診をしてくれたりと忙しかったからな」
かすみの毎日は、村と山との往復で忙しいものとなっていた。
その甲斐あって、鬼族の間でかすみの『
実際、ひたきの体が良くなってきたこともある。
また、長年鬼族でも患ったり、以前に怪我をして歩けない者がいたりと、困っていた者もかすみの治療のお陰でよくなってきていた。鬼族の間でも、かすみを先生と呼ぶことが定着しつつあった。
すべては、良い方向に進んでいると思えているかすみの顔がふいに曇った。
「烈火……。もし、村で居場所がなくなったら、ここに一緒に住んでもいい?」
ぽつりとつぶやくかすみの言葉は、ひどく頼りなげなものだった。
烈火は、言葉の内容よりもその弱気なかすみの態度が気になり、彼女を見つめ静かに問う。
「なにかあったのか?」
かすみは、いつも明るくふるまい、弱いところを見せない。
弱音を吐くかすみを初めて見たような気がしたからだ。
「ううん。何でもないの。急にへんなこと言ってごめんなさい」
烈火は、察していた。
気持ちが通じ合ったあの日から、どうすればかすみが何も失わずに幸せになれるかと。
それは、かすみが言ったように鬼と人間が共に暮らせる場を作るり境界線を失くすことではないかと。
かすみにばかり負担をかけているが自分にもできることがないか、考えていた。
今はその機会がめぐってくることを待つしかないことがもどかしいが、いくらでも待とうと思う。
「うまいことは言えないが、俺はいつでも待っているからあきらめるな」
かすみと一緒になれるなら、いくらでも……。
―――― チリン
烈火が
澄んだ音色は、幼い日の思い出が呼び起こされ胸が締め付けられた。
これは、烈火を助けた人間……、
彼は、それをかすみの手の平に乗せた。
銀の鈴は
かすみが陽にかざすと表面の
「
「
烈火は、それ以上多くは言わなかったがかすみにはその意味が伝わったようだ。
―――― いつでも、来ていい。
かすみが問う前から、烈火はその答えを用意していたのだ。
かすみが銀の鈴を大切そうに帯に挟むと、どこか納まるべきところに納まったような、もともと彼女のものだったかように似合っていた。
二人は、嵐の気配も感じずに幸せな時を過ごした。
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