鬼と薬師2


 かすみは話の最後に、週に一度程度で鬼族へ往診をしたいという提案をし村へ戻っていった。


 烈火は、かすみの申し出をありがたく思ったが、話をしばらく預かることにした。


「なかなか、難しいな……」


 烈火は、頭を悩ませながらため息をつく。


 鬼と人間がともに歩めれば滅びゆくことを待つだけの鬼族は救われる。

 山だけでなく、平地でも暮らせるようになれば生き方も変わる。

 人間にさげすまれず生きることはささやかな夢だ。


 争いのことを危惧しても始まらない。

 まずはかすみがどうすれば、鬼族になじめるのかを考えよう……。

 烈火は、族長へ相談したかった。

 族長を兄とも慕い、頼りにしていたからだ。

 しかし、先日の件がある。

 族長は、人間が鬼の集落に入ることを決して許しはしないだろう。

 烈火とて、かすみに二度と来てはいけないといったことがある。族長の考えは理解できた。


 彼は思う。これから族長に逆らってまでしようとしていることは、正しいことなのか、それとも誤ったことなのか……。

 それは、これからの時間が決めてくれることだ。深く考えることは止めようと思い至った時、いつのまにかかすみの考え方に似て来たと気づき苦笑した。



 鬼族には、長らく病で動けないものや怪我で手足が不自由なものもが多く、薬師に見てもらいたいものはいくらでもいる。

 その中でも、かすみを受け入れるきっかけになってくれる者がいるとするならと頭をめぐらせ、族長の妻ひたきはどうだろうかと烈火は考えた。


 つばめの母親だ。体が弱く、長らくせっている。

 物静かで温厚な彼女なら、かすみを強く拒絶することはない。

 それに、二人は気が合うような気がするのだ。


 儚げな容姿であるのに、鬼族の男でも委縮して意見できない夫のごうにやんわりと意見するところなど、ひたきとかすみはよく似ているのではないか?

 烈火は、その考えが悪くないと思い、かすみとひたきを引き合わせることにした。


 まずは、族長の留守を見計うことが難しいが、つばめにも協力をしてもらいやってみる価値はある。


 例え、族長から激しい怒りを買おうとも。

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