鬼と桜7


 かすみは、山で採取した薬草を仕分けする作業に追われていた。


 屋外で作業をしていると、村長むらおさがやって来た。

 なめるようにかすみの広げた薬草を見て、顔をしかめる。

「祖父の意志を継ぐとは男ならば立派だと言うところだが、女だてらに薬師くすしなど……」

 村長は、かすみの祖父が彼よりも村人にしたわれていたことをいまだ恨みがましく思っているようだ。

 さらには祖父が亡き後も村人がかすみを頼っていることが面白くなく、時々こうして嫌みを言いに来るのだった。 

「女の幸せはつぎ子を産むことだぞ、わかっとるのか?」

 祖父の後を継いで薬師くすしになってからはさらに村長の風当たりは厳しく、来るたびに暗い気持ちにさせられたが、ようやくあしらい方にも慣れてきた。

「ご心配ありがとうございます。それより、奥様のお加減はどうですか? 暖かくなってきたとはいえ、まだ朝晩は冷え込みますから無理せぬように……」

「わかっとる! お前に用があればあれが直接来るだろう」

「お呼びいただければおうかがいいたしますので」

 かすみはにっこりと笑ってみせると、村長はふんと鼻を鳴らし去っていった。


 村長を追い払うと、かすみは再びせっせと働いた。

 一人では、こまねずみのように働いても薬草の処理は何日もかかってしまうからだ。

 薬草は一度洗い、泥や汚れをとった後、天日干てんぴしや陰干かげぼしにする。

 ものによっては、一度茹でたりしたり、酒につけて抽出ちゅうしゅつするものなどあり手間がかかる。

 それを一人で作業するというのはなんと大変なことなのか、祖父の手助けがあればと弱気になった。   

 間違ってはいけないと気を張り、一人で出来る量もたかが知れている。

 春の分だけでも、もう一度薬草取りに行かなければいけないと、かすみは思った。

 誰かを連れて行けばいいが、鬼の住む山に入ることは村のおきてそむくことだ。

 知られれば、村を追われることすらある。他の者にきんを破らせるわけにはいかない。

 山は、熊や猪があらわれるため気をつけなければいけないことも多くある。


 けれど、鬼はどうだろう?


 かすみは、自分を助けてくれた鬼の烈火のことを思い出していた。

 話で聞くように荒々しくはなく、かすみを助けようとまわされた腕は慎重で、のぞきき込む金の瞳は心配そうだった。

 かゆを持ってきたときのはにかんだ様子や帰り際にいつまでも見送ってくれたことを思い出し、かすみは疲れを忘れた。

 山を下りれば、記憶も薄れるかと思ったが、日増しにあの時のことが鮮明に思い出された。


 烈火は、一人でどうしているのだろう?


 再び会い、もっと語らってみたい。

 しばし、頭を巡らせる。


 お礼の品を届けるというのはどうだろうか?


 何が喜ばれるか考え出すと楽しくなり、かすみは疲れた体が軽くなり再び動きだした。

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