第27話 既視感
急に現れた操真に、茜はぎょっとした。
教室にいるのにはもうすっかり慣れたが、急に出てこられるとびっくりする。
まふゆを抱っこしたまま固まっていると、操真は後ずさりした。
「おい。ちょっと待って」
そのまま回れ右して上ってきた階段を下りて行こうとするので、茜は思わず引き留めた。
操真は肩をピクつかせて振り向いた。
何も知らない人が見れば、不良ににらまれた女子二人が、おびえて身を寄せ合っていると思ったかもしれない。実際には操真のほうこそ、その場から逃げようとしているのだが。
あたしってそんなに怖いかな、と、茜の方こそショックを受けてしまう。
「いや、まふゆに会いに来たんでしょ。なんで黙って行っちゃうのよ」
「…………じゃま、かと思って……」
そのポケットに膨らみはなく、手も入れていない。
それでも返事が返せるようになったのだから、多少は転校先に慣れたということだろう。
男鹿先生からも、先に質問があったのだと言う。
お人形なしで学校に来られるかと聞かれ、操真は、その場で考えに考えた。
『……来られると、思います。……たぶん……』
そう返事をしたのは、先生が怖かったからではないはずだ。
操真は、たぶんできると思った。男鹿先生も、操真ならできると思っていた。
だから、学校には持って来てはいけないと決まった。
男鹿先生は厳しいので、『持って来ない』ではなく『持って来てはいけない』なのだ。
そういうところが、嵐山は嫌で仕方ないようだが。
『だいじょうぶ?』と、まふゆに目で尋ねられて、茜は気前よくうなずいた。
お互いに、なかよしエネルギーは満タンだ。
抱っこしていた手を放してやると、まふゆは操真に向かって階段を下りていく。
勢いあまって、操真にぶつかるほどだ。操真は避けもしない。
手をつなぎ、今日は操真から手を引いた。
茜は足を組んでネズミとクマのふれあい映像じみたその様子を眺めている。
入れ違いに、友達の宮地と奈々子が来た。
「学校で堂々といちゃつきやがって……」
お互いしか見えていない様子のまふゆと操真の二人を振り返り、奈々子はぼやいた。
宮地は首をかしげて「もしかして、つきあってるのかなあ」と不思議がっている。
そう言われてみると、茜も少し気になった。
まふゆが男子とつきあうイメージが無くて、なかよしだなあ、で済ませていたが。
しかし、なかよしだなあ、で済まなくなったら、どうなるのだろう。
その時、茜はなんだかちょっと変な想像をしてしまった。
即、やめやめ、と、茜は頭の上に浮かんだものを手で払い、二人に答える。
「そういうのとは違うんじゃない。まふゆも囲井くんも、ちょっと幼い感じだしさ」
「ああ、それは本当にそう」
「どっちも無口だからかなあ、なんか手とかつないでても、ちっちゃい子みたいだよね」
二人とも、茜の話にキャッキャと乗ってくれる。
茜は「そうそう」とうなずいて、先ほどの変な想像を忘れようとする。
だが、おまじないを繰り返すほどお人形になりたがっていたまふゆだ。
そして、自分のお人形をポケットの中でいつも触っていた操真だ。
二人がもし恋愛関係になったら、操真のポケットの中にまふゆがスポッと入ってしまう感じになるんじゃないか。それで、まふゆの方もそこに居ついてしまってあまり出て来なくなったりなんかしたら、茜としてはちょっと困る。
まふゆエネルギーが、チャージしづらくなってしまうではないか。
茜は、いやアホか、と自分で自分にツッコんだ。
だって、いくらまふゆが小さいからって、サイズ的にポケットの中なんて入れないし。
「うん、心配ないって!」
急に声を張り上げて大笑いする茜に、友達二人は、きょとんと顔を見合わせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます