第26話 まふゆエネルギー
コミュニケーション超人である茜の主たる動力源はまふゆエネルギーだ。
まふゆとの10秒間のふれあいで1mE(まふゆエネルギー)がチャージされる。
弟たちの面倒を2時間見るのに消費されるのが、だいたい50ⅿEだ。
学校、塾、家庭で忙しい茜にとっては、たいへんありがたいエネルギーだった。
「まふゆといる時が、一番ほっとするよー」
二人は西階段に座っていた。
まふゆエネルギーは密着すればするほど効率よくチャージできる。
そのため茜は、まふゆを膝に座らせて、背後からぎゅーっと抱っこしている。
まふゆも変換率の差こそあるが、同様に茜エネルギーをチャージしていた。
つまり、二人はとてもなかよしで、くっついているとお互いとても元気になれるのだ。
西階段の踊り場にある大きな窓からは、冬の晴れ間が覗いている。
光はまぶしいが、放射冷却で空気はきんきんに冷えていた。
「囲井くんのお人形のこと、残念だったね」
茜にそう言われて、まふゆはこっくりとうなずく。
フユは学校に持って来てはいけないことになった。
生徒指導室から戻ってきた操真にそれを教えてもらって、まふゆは、なんで?と思った。
授業と関係ないものだから、ということらしい。
まふゆだって家庭科で使うわけでもないのに、裁縫道具を持ってきたりしている。それを持ち込み禁止と言われたことなど一度もない。いったい何が違うのだろうか。
まふゆにはよくわからなかったが、茜には先生がそう言う理由もなんとなく理解できた。先生は、ただでさえ誤解を受けやすい操真を、これ以上悪目立ちさせたくないのだ。
それに操真のことを嵐山のように「きもちわるい」と思う生徒は必ずいる。隠されたり、壊されたりする可能性があるのなら、学校に持ってこないのが一番いいのだろう。
「……だから、わたしも学校でお裁縫は、もうしない。……授業の時以外」
まふゆが、自分からそんなふうに意見を主張するのは、かなり珍しいことだった。
こんなのおかしい、と思う彼女なりの小さな抵抗なのだろう。
「そうなんだ……」
まふゆの作品を見るのが好きだった茜には、少し残念な話だった。
だが、まふゆは、お人形の顔よりいっそうすました顔で、胸を張ってみせる。
「嵐山くんなんて、もう怖くないから」
「……そっか。そうだね」
そもそも、嵐山軍団から逃げる手段の裁縫だった。
茜はまふゆの頭に頬ずりした。
「まふゆ、ごめんね。まふゆは、あたしのせいで嵐山に言い返せなかったんだよね」
茜が変に間に入って嵐山に注意してきたことは、こうして考えてみると、結局は、誰の得にもなっていなかったように感じる。
ちょっと落ち込んでしまった茜を、まふゆは不思議そうに見た。
「違う……逆だよ。茜ちゃんが守ってくれたから、わたしは言い返せるようになったの」
「そうかあ……?」
「そうだよ。わたし、一人じゃなんにもできないよ……茜ちゃんのおかげだよ」
「そうかあ~……」
そう言われると、嬉しい。
茜はまふゆを抱っこしたまま、わーっと体をゆすった。
まふゆが少しだけ笑って、エネルギーのチャージ効率が跳ね上がる。
陽だまりでそうやって仲良くしているところに、ふっと大きな影が差した。
操真だった。
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