第17話 白くてふわふわ

 同じ昼休み、席を立ったまふゆと操真の二人は一緒に図書室に来ていた。


 図書委員のまふゆは本の並びに詳しい。


 奥のほうの手芸の棚の前まで来ると、しゃがんで目当ての本を引っ張り出した。


 そのまま見上げると、横に立っている操真は本当の怪獣のように大きい。


 でも、まふゆにとっての彼はもう怪獣ではなかった。


 今もカーディガンのポケットに、かわいいフユがいることを知っているからだ。


 まふゆが無言でカーディガンの裾を引くと、操真は意図を察してしゃがんでくれた。


 二人が一緒に見ているのは、お人形の服の作り方が載っている本だ。


 この季節に半袖を着ているフユのことを気にして、まふゆから言い出した。


 図書室では大きな声を出してはいけない。


 元から声の小さいまふゆだが、操真の耳元に口を寄せて話すのが好きだった。


「材料は、うちにいろいろあるから、好きなの作れるよ」


 いつもよりいっそう抑えた声で、こしょこしょと話すと、操真の耳たぶがほんの少しだけ赤くなる。その色づき方を近くで見るのが好きだった。


 ちゃんと、まふゆの話を聞いてくれているとわかるから。


 まふゆの人との距離感は、とても近いか、とても遠いかの二種類しかない。


 家族や茜、そしてお人形はもちろん前者で、それ以外は後者だ。


 一度、親しみを感じた相手には、手を握ったりよりそったり、お人形のように接する。


 そのグループの方に自動的に入れられてしまった操真は、もともと弱気な性格だった。


 自分から逃げるか、相手が逃げるのを待つかの二択で人と接してきたのだ。


 逃げたくも逃げられたくもない相手であるまふゆに対しては、とことん受け身になる。


 そして、積極的なまふゆに戸惑いながら、決してそれを嫌とは思っていなかった。


 一緒にいるだけで嬉しそうなまふゆを、近くで見ていられるなんて、それどころか。


 なんだか、きれいな夢でも見ているような気持ちになる。


 この感情がいわゆる恋と呼ばれるものなのかどうか、操真にはわからなかった。


 では純粋に友達なのかと言われると、首をひねってしまう。


 そもそも操真とまふゆは友達と言えるのだろうか。


 ただ隣の席なだけで、操真はまふゆのことをそんなに知らないのだ。


 お人形の時と同じだ。彼はただ、まふゆのことが好きなだけだった。


 フユには、ニットワンピースを作ることになった。


 本とデザインは同じでも、毛糸の色は変えられる。


「何色がいい?」


「……白」


 聞かれてわりとすぐに答えた操真に、まふゆはちょっと目を丸くした。


 いつもは答えるまで、もっと時間がかかるのだ。だが「うん、うん」とうなずいた。


「フユちゃんに、きっと似合うね……」


 そう言われて、操真ははっとした。まふゆに似合いそうな色を言ってしまっていた。

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