射せない、擦れない、抜けない

「そんなの嫌だぁあああああああ」


 僕は叫びながらうつ伏せになり、必死に床に擦りつける。

 その瞬間、カーペットがズレて効果が無い事を知る。


 ベッドに柱があるのを発見した。

 流石、高級ホテルだ。 救われた。

 柱に抱きつき擦ろうとした瞬間、磁石のように身体と柱が反発して僕は後方にぶっ飛んだ


 全裸になり風呂場に入る。

 シャワーの刺激なら、どうにかなるだろう……

 シャワーを股間に向けた瞬間、手が意思と関係なく動き出す。


 額から流れる汗は、湯気のせいなんかじゃない。

 自分の身体が自分の意思と全く違う動きをする。

 その、不気味さ、異常さに背筋が震える。

 そして、シャワーはそのまま顔面に直撃した。


 僕は、下唇を嚙みながら身体を拭いた。

 その後、使えるものは無いかと机の引き出しを全て開けた。

 そして、使えそうなものはすべて試した。


 結果、僕は一時間、無駄にした。

 どうあがいても、自慰行為は出来ないらしい。

 最終手段として検索欄に『熟女』と入れる。 

 動画が流れ始めると、僕の男の象徴はだんだんと萎み硬さを失っていった。


 一旦落ち着いた僕は、開きっぱなしの机の引き出しを閉めていく。

 必死になっていて見逃していたが、紙が入っているのを見つけた。


「貴方の異能力は『右腕の肉体的特徴を最強にする能力』です。 お楽しみください」


 こんなところに自分の異能力が書かれた紙が入ってるだなんて予想もしていなかった。


 ただ、能力の内容が不明確すぎる。

 右腕の肉体的特徴と言われると、思いつくのはリンゴを砕くような握力、見えないパンチを繰り出す素早さ、針に糸を通す器用さが思いつく。

 試しに僕は右手で左肩を揉んでみることにした。


 なんだこれは?

 気持ち良すぎる。

 硬く凝り固まった肉が、だんだん柔らかくなっていく……

 脳が筋肉のツボを理解していなくとも、右手がツボを理解しているんだ……

 僕は自分の右手を見て、これで股間が触れないのは生殺しだと歯痒く感じた。


 やることが無いままじゃ、またムラムラしてくるだろう。

 僕はロビーに向かった。


 ロビーは天井にはシャンデリア、部屋の角にはピアノが置いてあり、中央にはビュッフェがならぶ、高級なパーティ会場のようになっていた。

 ポツポツと人が居る

 他の人の異能を探ろうとする人、自分が何を禁止されているかわからない人、様々だ。


「唐揚げ!! 唐揚げがぁ!!!!!!」

 そう叫びながら、ビュッフェの前で手を震わせる少女も居た。

 きっと、彼女の大切にしている物は唐揚げだったのだろう……


 ロビーの端に置いてあるピアノに向かう。

 楽譜は置いてあった。

 僕は楽譜なんか読めない、だからこそ試そうと思い右手をピアノの上に置いた。


 右手が哀愁漂う旋律を紡ぐ。

 一つ一つの音の丁寧さは、音楽の素人の僕でもわかる。

 右手のみであれば、世界中どのピアニストよりもピアノは上手いかもしれない。


「やぁ、少年。 これは、ベートーベンの月光だね」


 紫色の女性が声をかけてきた。

 メガネの位置を整えて、僕の左側に腰をかけた。


「一緒に弾いてもいい? 」


「どうぞ」


 そう軽く言葉を交わすと、女性は左手部分を演奏し始めた。


「低音部分は弾かないんだね…… もしかして、君が大切にしていた物って左手? 」


「いや、僕の大切にしていた物は、オ…… え…… あ……」


 僕は思いっきり言葉に詰まってしまった。

 危ない危ない、ここで『オナニー』なんて単語を出すわけにはいかなかったからだ。


「ふーん、自分の大切な物を言わない。 正しい選択ね」


 女性は軽く微笑んだ。


「どういうこと? 」


「明日から、能力を使った殺し合いが始まる。 この戦いの勝敗を決定づけるもの、それは各個人が持っている能力だ。 能力こそが其々の強みであり弱点でもある。 とても重要な情報。 その能力は、各々が大切にしていた物で決まる」


「なるほど。 つまり、自分の大切な物を相手に伝えることは、弱点も伝えることになるって事か……」


「そういう事」


 僕達は演奏を終えて、椅子から腰を上げる。

 女性は僕に手を伸ばしてきた。


「いい演奏ありがとう、私は天目(アマメ) 君は?」


「僕は、擦田 扱指(コスリダ アツシ) よろしく」


 僕は、光の手を軽く握る。

 気付かないうちに、僕たちのピアノを聞いていた人達からの拍手と歓声が響き渡った。


 僕は、ロビーからリンゴ、ブッフェの盛り合わせ、箸を持って個室に戻った。

 グラスを机の下の引き出しから取り出した。

 グラスの上でリンゴを握った。


 軽い力でリンゴはペシャンコに潰れた。

 まるで油圧プレスのようだ。

 グラスの中に、搾りたてのリンゴジュースがドボドボと注がれる。


 コンクリートの部屋からついてきてしまったのだろうか?

 飛んでいるハエを素早く箸で掴む。


 体中にアドレナリンが湧き出てくるような感覚。

 今の状況に、自然に口角が上がっていく。


 僕の右腕は間違いなく世界最強の右腕だ。

 これで、オナニーが出来たらどれだけ気持ちいいんだろうか……


「くそ、箸を取りにいくために、またロビーに行かなきゃいかんくなったな……」

 箸の先でつままれたハエが必死に逃げようともがいていた。


 この戦いに負けても死ぬわけじゃない。

 しかし、僕は絶対にこのデスゲームで生き残らなければいけない。

 勝つんだ。

 この戦いに勝利して、鬼頭パイプ先生の同人誌と、この最強の右腕で抜くんだ!!

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