オナニー禁止デスゲーム 〜勝ち抜くために戦う、大切なモノのために〜

He

Don't Stop Me Now

 早く帰ってオナニーがしたい!!!!


 僕は今日、高校を卒業した。

 そして、真っ先に買ったもの。

 それがエロ同人誌だった。


 むかしから好きだった、鬼頭パイプ先生の新刊。

 僕が高校を卒業する前に売り切れにならなくて本当に良かった。


 ここは名古屋駅。

 数々のビルが建ち、人でにぎわっている。


「あの、アンケートに答えていただけませんか? 」


 僕に声をかけてきたのは長い髪のおとなしそうな女性だった。

 人ゴミをターゲットに声をかけ、止まってくれた人を相手に商材を売りつける。

 よくあるパターンだ。


 僕は右手に持った黒い袋を見る。

 早く帰って読みたい……


「忙しいんで」


「待ってください」


 僕が急ぎ足で立ち去ろうとすると、女性も速足になり追いかけてきた。


「一つだけでいいんです!! 『あなたの大切にしている物はなんですか? 』 これに答えるだけでいいんです!! 」


 女性は必死で追いかけてきた。


 このアンケートに答えないと、その女性はずっと付いてくるだろう。

 しかし、答えれば話題を広げて商材を売りつけてくる。


 僕の中で、この状況を切り抜ける答えが出た。


「オナニーだ」


「え? 」


 女性は豆鉄砲を食らわされたようなキョトンとした顔をした。


「なんども言わせるな、僕が大切にしている物、それは『オナニー』だ」


 僕の考えは完璧だったろう。

 アンケートには答えた。

 話題にしようとしても女性はしたくない話題で完封し商材も押し付けられない。

 仮に訴えられても、答えただけだと言える。


「あ、あの、すいませんでした!!」


 アンケートの女性は、走って逃げていった。


 この勝負、僕の勝ちだ。

 ざまぁ見やがれ、二度と僕に話しかけんな。



「みんな~ おはよう」

「おはようございます、起きてください」


 僕を起こしたのはその一言だった。

 目を覚ますと一面コンクリートの壁が目に映り、辺りには人がいっぱい居た。

 腐敗臭がして、プーンと音を鳴らしながら飛ぶハエを手で払う。


 妙な胸騒ぎがする。

 最後の記憶と言えば、家に帰り抜く予定だったが、何故かすごい疲労と眠気に襲われて眠ってしまった。

 それだけだった。


「ここ何処? 」


 僕の隣で女性が目を覚まし周りを見渡していた。

 紫色の長髪をなびかせ、メガネを取り出した。

 おそらく、この女性も家で寝ている間に連れてこられたのだろう。


「よく眠れましたか?」

「起きた人は、こっちを向いてね」


 僕を起こした声が再びし、その方向を向くと二人の女性が壇上に立っていた。


 一人は、ツインテールの元気いっぱいな女の子。

 もう一人は、どこかで見たことのある、長い髪のおとなしそうな女の子だった。


「皆にはゲームをしてもらうために集まってもらったんだよ。 私は司会、実況担当のソーダ!! そして!!」

「わたくしが解説のトニックです。 ルールを説明……」


「おい、お嬢ちゃん!! こんな所に急に連れてきてゲームをしろってどういうことだ!!」


 一人の男が、壇上に上がり怒鳴りつけた。


「トニックちゃん、どうする? 」

「いつも通りの方法で行きましょう」





 二人はそういった後、指を鳴らす。

 すると「ガラガラ」と音をたてて、本棚が運ばれてきた


「貴方は木村太郎様ですね。 わかりました、貴方をおうちに帰します」


「え? 帰してくれるのか? 」


 木村と呼ばれた男は、目を大きく見開いた。

 こんな場所に連れてきて、帰りたいと言えば帰してくれるこの状況が不気味で仕方がなかった。


「こちらの漫画は、私たちからのお詫びの品です。 手に取って読んでみてください」


 トニックはそう言いながらゲームを指さす。


「お、おい。 これは廃版になった幻のコミックじゃないか? こっちはプレミアム価格になってる雑誌だ!!」


 木村は目を光らせて、本棚に近づき手を伸ばそうとした瞬間、動きが止まった。


「あ…… あれ? 」


 木村は力を入れるかのように手を震わせ、大きな声を上げながらずっと止まっていた。


「どういうことだ? 」


 木村はトニックとソーダの方を向いた。


「『あなたの大切にしている物はなんですか?』…… このゲームに負けても死ぬわけではございません。 一生『あなたの大切にしている物』が禁止されるだけです」


「は? と、いう事は? 」


「はい、あなたは一生『漫画』禁止です」


 トニックは木村に告げた。


「木村はゲームの参加権を失いました。 連れて行きなさい」


「や、やめろ。 ゲームに参加させてくれ!!」


 木村は黒服の男に、捕まり部屋の外に追い出された。


「今見た通りだよ」


 ソーダは木村を指さして言った。


「では、改めてルールの説明をします。 皆さんには、各個人が『大切にしている物』に関わる異能力が与えられます。 その能力を使ってデスゲームしていただきます」


「ただ、さっきトニックが言ったように、ゲームに負けても死んだりはしないよ。 もし仮に死んだとしても……」


 そう言いながら、ソーダはポケットから銃を取り出し、トニックのこめかみに向ける。

 背中に氷が当てられるそうな寒気を感じて、目を覆った瞬間「パァン」と乾いた音がした。


「キャー」と叫ぶ声と出口の方からドアを叩く音が響く。

 目の前でトニックと呼ばれていた女性が頭から血を流して倒れていた。


「みんな落ち着いて」


 そうソーダは大声で場内の人を引き止めた後、指を鳴らした。

 すると、まるでビデオの逆再生を流しているかのように、トニックは不自然に起き上がり。

 銃弾は、銃口の中へと帰っていった。

 そして、トニックはさっきまで死んでいたのが嘘のように話し始めた。


「このように、死んでも生き返りますので安心してゲームを楽しんでください」


「これが私の異能力だよ!!」


「現在、皆様は木村のように『大切にしている物』を禁止してあります。 解禁するには、ゲームで優勝する以外の手段はありません」


「ゲームの詳しい内容はまた明日になったら説明するよ~」


「まずは環境に慣れて頂きたいと思います。 個室とロビーを用意してあります、そちらでお過ごし下さい。 交流も自由です」


 二人が説明を終え、黒服が人を案内する。


「ふざけるな!!」


「俺の大切にしている物を返してくれ!!」


 そう周りが騒ぐが、僕は不思議なほど落ち着いていた。

 何故かと言うと自分の『大切にしている物』が何なのか思いつかなかったからだ。

 僕は、ただただ静かに黒服についていった。


 個室は、まるで高級ホテルの一室だった。

 ネットは繋がるらしい。

 やることがないな……


 僕は早速、検索をし動画サイトに向かう。

 そして、僕の今のトレンド、コスプレもので一番好みのサムネをクリックする。

「Hey guys! We have a gift for you…」

 どうでもいい広告を飛ばし好きなアニメのキャラに扮する女の子を見る。


 興奮してきた。

 個室にカメラが無い事を確認して、僕は下半身を露出させた。

 そして、右手でモノを掴もうとした瞬間。


「あれ?」


 手が止まったことに気付く。

 力を入れても入れてもモノが掴めない。


「ちょっと待て…… ありえない、あり得ないぞそんな事」


 僕は、あのトニックと言う女性がどこであった女性か思い出した。

 昨日、僕にアンケートをしてきた女性だ。


『あなたの大切にしている物はなんですか? 』


 そう、あのアンケートが全ての始まりだったんだ。

 そして僕は、こう答えたんだ。


『オナニー』と……


 ヤバイ、このままでは家に帰れたとしても、せっかく購入した鬼頭パイプ先生の同人誌で抜くことが出来ない。

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