第5話 招集


「はあ……はあ……」

「今日は……きつかったな……。みな、ゆっくり休んでくれ……」


 隊長も死にかけたのに俺達を気遣ってくれる。今日は言う通り厳しい戦いだった。

 こちらの戦術を逆手に取る行動がちらほらあり、追い込まれる場面が多々あったからだ。


「しかしカミシロはいい判断をしてくれたぜ。助かったよ」

「いや、運が良かったんだ。お互い死なないように頑張ろうぜ」


 別部隊員のカーウェンが疲れた顔でハイタッチを要求してきたのでそれに応じる。最初は突っかかって来たアメリカ人だけど、いまとなっちゃ戦友だ。

 一か月でそう思えるくらいの戦いがいくつもあったからな……。


「さて、ひと眠りしたら哨戒任務か……。飲み物をっと」


 俺はロビーにある自販機に金を入れて飲み物を買う。今、人気らしいエナジードリンクが売り切れていなかったのでラッキーとばかりにそいつを買う。


「凌空さん」


 すると背後で俺の名前が聞こえてきた。振り返ってみると、そこには見知った顔があった。


「ん? お、若菜ちゃんか。名前で呼ばれるのは久しぶりだ」

「今は誰も居ませんから! 大丈夫ですか?」


 声をかけてきたのは若菜ちゃんだった。

 とりあえず俺はジュースのふたを開けて一気に飲み干すと、笑顔で返してやる。


「問題ないぜ。一年間、訓練でかなり鍛えたからな。そっちはどうだ?」


 たまにしか話せないのでお互いのこと……というより彼女は俺のことを戦闘中だけ知っているから尋ねてみる。


「私はオペレーターですし、交代要員は多いんです。だから凌空さんほど過酷ではありませんよ」

「そりゃよかった。あいつがうるさいんだよ、ちゃんと若菜ちゃんのために戦ってるのかってさ」

「志乃ちゃん、相変わらずだなあ」


 そう言って笑う。こういう笑顔だと年相応だなと感じるな。この子も俺にとっちゃもう一人の妹みたいなもんだ。

 両親を亡くした彼女はしばらくウチにいたんだよな。


「さて、そろそろ寝るかな……」

「あ、ごめんなさい引き留めてしまって。……きゃ!」

「エナジードリンクの新作らしい。そいつを飲んで気合を入れてくれ。いいさ。他ならない若菜ちゃんだし。……ん? 特別招集コール?」


 そこで俺の腕にある端末が光り出し、画面に招集コールを告げる文字が浮かんでいた。


「なんでしょう……?」

「わからん。けど、寝ている暇はなくなったのは確かだぜ……とほほ……」

「ふふ、頑張ってくださいね! それじゃ!」


 俺は片手を上げて彼女を見送ると、首を鳴らしてから表示された場所であるフェルゼの施設がある第四ブロックへと向かう。


「くっそ、これで任務があったらさすがにキツイぞ……」


 通路は無重力状態が続くので掴んで移動するレバーを握って移動する。俺は今更ながら面倒くさいことになったと思いながら真っすぐ指定された場所へ。

 しばらく移動し、施設内の会議室の扉の前にやってきた。


「神代 凌空、到着しました!」

「入ってくれ」

「失礼します! ……!?」


 シュインという小気味よい音と共に扉が開くと、中にはフェルゼの最高顧問であるエルフォルクさんと、数人の隊員が居た。階級は全員バラバラだけど、一番下っ端は俺で間違いない。とほほ。


「よう、ジャパニーズ!」

「ケーニッヒさん久しぶりです」

「わたしも居るわよ」

「エイヴァさんも」


 訓練で一緒になったりしている顔が居てホッとする。二人は訓練生の俺に色々教えてくれた。ケーニッヒはドイツ人の二十九歳。エイヴァはイギリス人で二十七歳だったかな? 翻訳機があるから言葉は通じる。便利な世の中だよな。


「俺が最後だったりする?」

「いや、後二人来る。もう少し待ってくれ」

「了解です」


 エルフォルクさんがスピーチの教壇みたいな場所から俺に声をかけてくれた。どうやら全部で五人が招集コールされたらしい。


「なんかお前、オペレーターの子といい雰囲気らしいじゃないか」

「あ、わたしも聞いた! 同じニホンジンの子って!」

「若菜はそういうんじゃないんだって! 妹の親友でな? 妹みたいなもんなんだよ」

「おっほ! そう言いながら実はってやつじゃあないのか?」


 うぜえ。

 用意された椅子に座るとケーニッヒは俺に絡んで来た。悪い人ではないが、からかうことに命を賭けている節があるんだよな……。


「ま、そういうのならいいんだけどさ。あんたパイロットでいつ死ぬか分からないわけだし、告白はちゃんとしときなさいよ?」

「いいこと言おうとして結局そっち方面かよ!?」

「エイヴァ、ナイス」

「グッド」


 つまらない友情を確かめ合う二人へ恨みの目を向ける。反撃をしようと思ったところで外から声が聞こえてくる。


「ユーシェン、到着しました」

「入ってくれ」

「はい」


 どうやら新しい人間が来たらしい。俺達三人は黙って扉の方を見ると、黒髪の女の子が入って来た。


「ようこそユーシェン君。好きな席に座ってくれ」

「承知しました」

「おや、ニホンジンかしら?」

「いや、チャイニーズっぽいな。ああいうのはどうなんだ?」

「まだその話が続いていたのか……。初めて見る子だな」


 ユーシェンと呼ばれた子は一番前の席に座り、シャキッと背筋を伸ばして待つ体制になった。

 二人も知らないようで、肩を竦めて背中を見ていた。すると同性のエイヴァが近づいて声をかけた。


「ハーイ♪ 初めまして! わたしはエイヴァ。ここに招集コールされた一人よ」

「あ……! す、すみません! 緊張して先輩方に挨拶もせズ! ユーシェンでス、よろしくお願いしまス!」

「俺はケーニッヒだ」

「神代です。よろしく!」

「よろしくお願いしまス!」 「


 独特な語尾をするなと思いながら握手をする。強面だと思ったら緊張していただけだったのか。


「どこの所属だい?」

「あ、ワタシは第五小隊でス。階級は軍曹でス!」

「はっはっは! バーグラーさんのところか。まあ、タンク部隊とは大変そうだな」

「装甲があるので怖いけど頑張れまスよ!」


 ひとまずなにをするため呼ばれたのか分からないが仲良くなっておくことにこしたことはないものな。


「……ここはハイスクールか? 騒がしいな」

「「「「「……!?」」」」


 そこで扉が開き、不機嫌そうな声が聞こえてきた。俺達が目を向けるとそこにはおっさんと言って差し支えない男が立っていた。

 しかし、彼はWDMに居る人間なら誰でも知っている男だった。


「ガルシア殿か。挨拶も無しに扉を開けたあなたも似たようなものだろう? さ、これで全員揃った。話をしよう――」

「ケッ……」

「なぜあの人まで……」


 ケーニッヒは冷や汗をかいて誰にともなく呟く。

 それは当然だ。入隊したばかりの俺でも知っている……。死神と呼ばれるパイロット。ただ一人、部下を持たないワンマンキャプテンなんだからな。

 このメンツ、一体どういう……?

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