第6話 新型

 死神と呼ばれる歴戦のパイロット、ガルシア大佐。WDMでは知らない者が居ないであろう有名人だ。

 理由は簡単で、まだ各国の小競り合いが続いていた頃、戦争中に単騎突撃を繰り返しては相手を倒して帰還する男だったためである。

 それはこの組織が設立されて編入してからも変わらず、海賊や『メビウス』相手に攻撃しては帰ってくる。

 

 新人二人にベテラン、それと扱いにくい古参とは……。どういう名目で集められたんだ……?


 そんなことを考えていると前に立ったエルフォルクさんが口を開いた。


「揃ったので説明を始める。まずはこちらを」


 そう言って正面のモニターに写されたのはヴァッフェリーゼだった。今さら機体の説明かと思ったがよく見るとそうではないことが分かる。

 俺は誰にともなくポツリと呟いた。


「……新型、か?」


 細部の意匠が違う白い機体。似ているが今のものよりシャープで機動性が高そうだと、なんとなく感じた。


「そうだカミシロ君。これは新型のヴァッフェリーゼでコードネーム『ヴァイス』という。君たちを集めたのは外でもない――」

「まさかこいつのテストパイロットをやれってか?」

「そうだケーニッヒ殿」


 ということらしい。

 新型のテストパイロットは簡単になれるものじゃない。その上、出撃がしばらく免除され安全だったりもする。

 給料は変わらないので俺としては願っても無い話。だが――


「あの、質問いいでスか?」

「ああ。構わないよユーシェン君」

「ワタシは入隊してからそれほど出撃回数は多くありません。こういったことはベテラン……例えばエイヴァさん達ならわかりまス。それなのに……」


 俺も聞きたかったことをユーシェンちゃんが聞いてくれた。

 そう、こういうのは慣れている人間が行う方が自然だ。もしくは正しいと言える。

 俺とユーシェンちゃんの出撃回数は他の隊員を見ても明らかに少ない。ということは経験が足りないので『理解はできても応用が難しい』と思うんだよな。


「この選定は私が決めた。理由はもちろんある」

「……聞かせてもらいたいもんだな。俺が部隊チームを組まないのは知っているだろうが。それにお守りまでさせられちゃたまらんぞ」

「ガルシア大佐。この決定は上層部にも許可を貰っている。不満であるなら辞退は可能だが、その場合あなたは前線から外れてもらう」

「なんだと!? そんなことが許されると思ってんのか……!!」

「もちろん。私やWDMの目的は『メビウス』を叩くこと。あなた個人の我儘を聞く必要は無いし、決定を覆すのであれば相応の待遇になるのは当然だろう?」

「……チッ」


 ガルシア大佐は舌打ちをしながら足を机にかけてそっぽを向く。単騎で吶喊するが命令違反はしないらしいという噂は本当らしいな?

 それはともかく、新型のテストか。


「意図をお聞きしてもよろしいでしょうか? 理由はある、と言っていましたが」

「そうだな。現状、ヴァッフェリーゼは三つの兵装のどれかを装備して出撃する。そのバリエーションを増やすためだ」


 エルフォルクさんが『例えば』と言いながら手元の端末を操作すると、画面が変わる。そこには長身の銃……いわゆるスナイパーライフルを装備したイメージ図が出てきた。


「狙撃用の兵装などだ。ここで話を戻すが、君たちにはこの兵装試験の適性があると判断した。エイヴァ中尉は射撃試験で優秀な成績を修めているな」

「ええ……まあ。トップ3に入るくらいには訓練を積んでいますけど」

「凄いでス……」


 エイヴァさんは射撃で一位になることもあるけど二位とか三位にもなる。他の隊員も研鑽を積んでいるのだ、油断はできない。


「なら俺は……」

「あなたは格闘技経験、それも大会での優勝をしたことがあるな? 今は射撃武器しかないヴァッフェリーゼだが、今後は近接武装も作っていく。だからその知識を活かしてほしい」


 続いて出た画像は大型の剣やナックルに刃がついた武装などだった。確かに今は射撃のみ。殴る動作も出来るが耐久度の問題で使用する奴は居ない。


「そしてユーシェン君はブースターのテストをしてもらう。何度か戦闘記録を拝見させてもらったところ、Sシュッツェン装備で見事な回避を見せていた。防御用として建造されている。故に回避性能は低い。だが、君は被弾率が群を抜いて低いのだ」


 その動きを研究するってことか。

 遠・近・避が揃ったな? あれ? 俺と大佐はなにをするんだ?


「えっと、俺……私は?」

「カミシロ君か。君はバランサーだ」

「バランサー?」

「全ての行動に置いて最適な動きをしているんだ。その動きをAIに学習させるためガルシア大佐と模擬戦を繰り返し行ってもらう」

「な……!?」


 マジか……!??

 あの人と模擬戦? 一人で『メビウス』の連中と戦える人間とかよ!?


「ふん、俺がニホンジンの若造と……? 舐められたもんだぜ」

「まあそれは戦えば分かるよガルシア大佐。そしてあなたには三人の研究成果を得て作られた武器のテストを行ってもらう。これは軍に居たころから生き延びていて様々な戦いを見てきた大佐が適任だろうと考えたからだ」

「……そこについては不満はないが、戦場には出られるんだろうな?」

「悪いが新型のロールアウトまではテストに専念してもらう」

「……!」


 エルフォルクさんがきっぱりと告げたところでガルシア大佐が立ち上がり怒りの表情を見せる。すげえ威圧感だ……!? 


「それで戦いができるかよ! 俺が居なきゃ死人が出るぞ? すでに相当犠牲が出ているのにまだ出すのか? テストしながらでも出撃はできるだろうが……!」


 自信があるから出る言葉だ。さすがはワンマンアーミーと言われた男だ。

 しかしエルフォルクさんはその言葉に対して鼻を鳴らしながら返す。


「ふん。さっきも言ったが上層部の判断も含まれている。拒否をするなら裏方へ回ってもらう」

「だがよ……!」

「聞くのだ大佐。このプロジェクトは『メビウス』の人型機動兵器を上回る性能を持つ『ヴァイス』の開発。これを終わらせることで戦死者や負傷者の数はかなり減るだろう。そしてそれは早く終わればその分さらに、だ」

「……」

「無言は肯定とさせてもらう。ではこれよりスケジュールを――」


 確かにエルフォルクさんの言う通りだ。戦いに勝つための力が欲しいなら、このプロジェクトに協力しない手は無い。

 乱暴に座り直したガルシア大佐もそれは分かっているのだ。それでも戦場に出たいのはどうしてかわからないけどな。


 ともあれ、まさか俺がこんなことテストパイロットになるとは思わなかった。出来る限りのことはやってみるか――

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