第3話 目的
「なにごとだ!?」
「落ち着いてくださいスッダー将軍。恐らく館内放送が流れます」
突然のアラートに、スッダー将軍が声を上げる。それをエルフォルクが制していると言葉通り館内放送が流れる。
<緊急事態です! 例の人型機動兵器がグレイスⅣの宙域へ現れました! チャンネルを441に合わせてください>
「承知した」
エルフォルクがリモコンを操作してモニターの画面を切り替えると、警戒用ドローンのカメラに切り替わり、三機の人型機動兵器が映し出された。
「なに……これほど近くへ……!? こっちには連絡が無かったぞ……! 他の者は!」
「こっちもです。ですが、それを調べている時間はありません! 直ちに戦闘の準備を!」
「……そうだな。ここは俺が指揮しよう。スッダー将軍はこっちの話をまとめてくれ」
「む……。分かった、任せるぞ」
オールトー将軍が帽子を頭にのせて席を立つと、部下を引き連れて部屋を後にする。残された数人の士官とスッダー将軍はモニターを見ながらエルフォルクへ声をかけた。
「……それで、君の言う金属を生成できれば奴等に対抗できるというのか?」
「確実とは言えませんが」
「そんなことでは……!」
「よせ。ここで彼女を糾弾しても仕方が無い」
冷や汗をかきながらエルフォルクへ食って掛かる士官をスッダー将軍が止める。そこで人型機動兵器とWDMの戦闘機が接敵する様子が目に入った。
「今回は少ない……! 倒せるはずだ!」
「頑張ってくれ……!!」
しかし、たった三日で立て直しが簡単にできるものではなく、戦況は重く苦しい。
それは静かに見ているスッダーやエルフォルク達にも分っていた。
「ぐ、うう……」
「最新鋭の機体でも捉えるのが難しいのか……!?」
「い、いや、攻撃は当たっているぞ! 相手の動きに慣れてきた!」
「……」
「……」
それでも、瞬間的に撃墜される割合は減っており、攻撃回数自体も前回より増えていた。相手の数が少ないので当然ではあるのだが先日の戦闘を知っている人間からするとこれでもマシに見える。
だがスッダーとエルフォルクは無言でモニターを見つめていた。
すると人型機動兵器三機はグレイスⅣを背にするように移動し、動きを止めた。
戦闘機は攻撃をすることができなくなりその場に停滞する。だが、包囲をすることに成功した形だ。
「諦めたか……?」
「違う。グレイスはいわゆる人質だ。友軍が撃たなくても奴等はグレイスを破壊できる位置だぞ」
「た、確かに……」
士官の言葉をスッダーが否定した。彼の言う通り、小回りのきく人型機動兵器の有利は変わりがないのだ。
膠着状態になった。
誰もがそう思った瞬間、ノイズの交じった音声が流れ出した。
『……地球の諸君、聞こえているか? ああ、返事はしなくて結構。さて、前回の戦闘で力の差があると知ってなお抵抗してくるとは思わなかったよ。我々が何者かを知りたいだろう。こんな残虐なことをするのは一体誰だ、と』
「ジャックされている……だと?」
――戦闘機やグライア内部へ演説のような言葉が流れ始めた。すぐにエルフォルクがどうやっているのか、手元の端末を操作し確認する。そこで通信障害を示唆する画面が表示されていた。
「チッ、周波数が変えられん」
「俺がやりましょう」
「頼む、ギル」
破片を運んできた男性職員であるギルに作業を任せ、エルフォルクは演説に耳を傾ける。すると先ほどとは違った声が入って来た。
『回りくどいぞ。物事は簡潔にしろ。……我々は君たち地球人の言うところ、外宇宙から来た。プロメテウス銀河の中にある星『メビウス』からだ。目的は……地球を我々に明け渡してもらうために』
今度の声は先ほどのふざけた感じとは違い、誠実そうな印象を受けるなとスッダーが考えていると続いて凛とした女性の声が聞こえてきた。
『潔く降伏をすれば良し。さもなくば犠牲の上に掌握をさせていただくだけです。まあどちらにせよ地球からはメビウス人以外は宇宙へ捨てますがね。このグレイスという居住スペースに詰めて物資の生産をやってもらいましょうか?』
『いやあ、資源が勿体ないし皆殺しでいいだろ! はっはっは!』
「ふざけたことを……!」
「オールトー将軍、攻撃を……!!」
あまりの物言いに激昂する士官達。そこでスッダー将軍が口を開く。
「相手は我々と同じタイプの宇宙人ということか? そして目的がハッキリしたのは僥倖か」
「そうですね。どうして地球を欲しがるのかがわかりませんが――」
『ま、抵抗してもこうなるんだがな……!!』
「あ!?」
予測を口にしていたその時、ふざけた口調をしていた男が威圧的な声でグレイスの壁面にライフル銃のような武器で発砲。グレイスⅣの外壁が吹き飛び、いくつかの穴が開いた。
<全軍突撃……!! 一機でもいい、なんとか落とせ!>
放っておいても奴等はグレイスを破壊する。こうなっては攻撃をしない理由はないとオールトー将軍の怒声が聞こえてきた。
「直ったか」
「ええ。こちらからも話ができますが」
「……今は、いい。好きにさせておけ」
「将軍……」
再び開始される戦闘を目にしてスッダーは語ることがないと眉間に皺を寄せて拳を握る。
「……!?」
力を入れ過ぎたせいか、スッダーの白い手袋が赤く染まっていく。
『我々は先遣隊だ。すぐに本隊がここへ来る。それまでに明け渡すか、死か。各国で議論し結論を出しておくのだな』
<待て……!! 逃がすな! せめて、一機だけでも!>
「おおおおおおお!」
『なに……!』
オールトー将軍の叫びに数機の戦闘機が人型機動兵器へ突っ込んでいく。慌てた音声の後、二機の戦闘機が人型にぶつかり爆発した。
『大丈夫?』
『シールドがやられた。それと足のブースターが2基だ』
『とりあえず目的は果たしたし、戻るか』
『そうだな』
その瞬間、人型機動兵器はブースターを噴射させて一気にこの宙域を離脱する。去り際に背面撃ちで戦闘機を破壊しながら。
<おのれ……!>
「くっ……追いつけない……。なんて速さだ!!」
宣戦布告。
異星の客は地球人類を滅ぼすためにやってきたと宣言した。
「……将軍。私の提案するヴァッフェリーゼは――」
「説明はよい。すでに君の人型機動兵器で『できるかどうか』は二の次で、すでにここは『やるかやらないか』を決める場なのだ――」
スッダーはモニターを見ながらエルフォルクへそう告げる。
そう、まずは相手の土俵に立つことが肝心なのだと。それで勝てるかどうかは分からない。
しかし、本隊が近づいてくると宣言した『メビウス』と早期に戦うための力を得るためにはその提案を試す選択をするしかなかった――
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