第2話 反撃
――開戦。
時に惑星歴九十五年八月十七日。その日からそう呼んで差し支えない状況となった地球圏。
あの日、一通りの攻撃をした謎の人型機動兵器はWDMの本部があるグレイスを破壊した後に立ち去っていき、一旦はその脅威から逃れることができた。
去った理由としては二つ。
元々、狙いはWDMの本部の破壊だったであろうこと。
そして、戦闘機による攻撃を嫌がったということだろう。
終始優勢だった人型兵器だが、各グレイスから戦闘機をまとめて一気に発進させたことでダメージを与えられるようになっていたからだ。敵としては標的が増えるため狙いもブレ、回避が難しくなる。
しかしそれでもWDMの持つ兵器では敵の装甲を破ることが殆どできなかった。
「……結局、奴等の目的はなんだったのだ」
「あれから襲来してきませんが、WDMの本部とグレイスの破壊だったのでしょうか」
「それは見れば分かる。しかし『何故そんなことをしたのか』を考えねばならん」
「各国の政府は?」
「説明責任とやらに追われている。矛先がこちらに向く前に我々は状況を整理して作を講じねばならん」
――八月二十日
グレイス三へと逃げたスッダー将軍以下、生き残ったWDMの人間達がフェルゼ・ゼネラルカンパニーの一室で話し合いをしていた。
三つのグレイスが壊滅し、本部の無くなったWDMは地球から遠いこの場所へ集結するよう呼びかけた。
総司令官が最後にこの会社へ行くように告げられたスッダー将軍の一声でなんとか生き残りを集めた形だ。
そしてようやく会議を出来る程度には落ち着いたというわけである。
「スッダー将軍、我々はこれからどうする? 残された将軍は貴殿と私のみ。総司令官は最後にエルフォルクとこの会社のことを言っていたらしいが」
「そうだ。オールトー将軍。セヴァス様はここへ来るよう言っていた。だからここに集めたのだ」
「……君が総司令官をやりたいから、遺言と称して集めさせたのではあるまいな?」
「なんだと……! 貴様、セヴァス様の最期を見た私にそのようなことを……!!」
「見たのは貴殿だけだからな……」
「この……!」
オールトーが鼻を鳴らしながらそんなことを突き付けてきた。もちろんそんなことは無いため激高して胸倉を掴むスッダー。
「や、やめてください! 残った将軍で喧嘩をしてどうするんですか!?」
「止めるなイワンこやつが……!」
「仲間割れをしている場合じゃないでしょう! オールトー殿も口が過ぎますぞ!」
「フェルゲン大佐、上官に意見する気か?」
「まだ言うか……!」
その瞬間、スッダーの拳がオールトーの左頬を撃ち抜いた。
「貴様……!」
「ぐっ……!」
「止めてください!?」
直後、オールトーも反撃をして場が騒然となる。会議どころではないとフェルゲン達が抑えようとする。
この先をどうするべきか? 相手の正体も分からず、さらに戦力はあれだけではないはずという予測は簡単につく。
WDMという組織が総崩れに近い状況になった今、全員が不安なのだ。なので将軍たちのストレスも分かる。
しかしそれと同時に上官がこれではどうしようもないと、場にいる人間は渋い顔になっていた。
「オールトー将軍。総司令の最期は私も見ている。スッダー将軍がそんなゲス思考をすると思うかい?」
「ぐっ……。エルフォルクか……」
「……すまない。醜態を晒したな」
「いえ、お互い気の済むまでやり合った方がいいかと。スッキリしたら作戦の一つでも考えられるかもしれませんしね?」
「「……」」
フッと笑うエルフォルクを見て、将軍二人はすぐに煽られたと勘づき喧嘩を止める。皆がホッとする中、スッダー達が席に戻った。
それを確認してからエルフォルクが一番前にあるスクリーンの前に立ってから口を開いた。
「さて、あれから三日。『敵』からのアプローチは無し。なので今のうちにWDMには隊の再編と今後のことを考えていただければと思います」
「言われんでもわかっている」
「なら喧嘩は不安を煽るので誰も見ていないところでお願いしますね」
オールトーがその言葉に眉を顰めて黙り込む。それに満足したエルフォルクが小さく頷いてから話を続ける。
「というわけで、集まってもらったのは他でもありません。
「……兵器開発、ということは聞いているが」
「はい。まずはこれを見ていただきたい」
エルフォルクが手元あったリモコンのスイッチを押すとスクリーンが降りてきてすぐに映像が映し出された。
そこには『敵』と同じような人型機動兵器の画像が表示され、WDM隊員にどよめきが起こる。
「これは……奴等と同じ……」
「地球も製造をしようとしていたのか……」
「はい。これは我がフェルゼ・ゼネラル・カンパニーがセヴァス指令に提案した人型モジュール『ヴァッフェリーゼ』というものです」
「『大きな兵器』とはシンプルな名だ」
オールトーがポツリと呟いたことには返事をせず、資料をスライドさせていくエルフォルク。
細身のシルエットは機動力を活かした運用と指による精密な作業をこなせるとの説明があり、隊員達は興味深いと小声で話し合っていた。そこでエルフォルクが咳払いをして続ける。
「……しかし、あそこまで強力な兵装をつけることは考慮せず、あくまでも海賊や宇宙空間作業の補助として『視せる』パフォーマンスの側面が強い機体でした」
「全項約二十メートル。戦闘機と違い、巨大な人型なら相手を威圧するには十分な効果を発揮するな」
「ええ。宇宙シャトルやグレイスの防衛でも戦闘機では直線の動きになりがちですから、三百六十度、全てをカバーできる兵器は最適だと思ったのです。そしてそれは皮肉にも先日、証明されました」
その言葉で室内が一気に静かになる。歴史に残るほどの大敗。それを今、未完成の機動兵器がやったのだから無理もないことだった。
しかしすぐにスッダー将軍が口を開く。
「奴等に対抗するためにはそのヴァッフェリーゼという兵器が必要だ。完成は見えているのか?」
「……」
「おい、エルフォルク。ここまで見せ、期待させておいてだんまりか……!」
「見て欲しいものがあります。こちらへ」
「なんだ……?」
「ほいほい。持って来たよエルちゃん」
「エルちゃんはやめろ……!」
沈黙したエルフォルクに激高するオールトー。そこでエルフォルクが一緒に入って来た研究者に指示をすると、扉の向こうから人間の胴体ほどの金属の塊が運ばれて来た。
「なにかの破片、か?」
「そうです。あの『敵』機体の欠片です。射撃により破損した箇所があったようで、回収してきました」
「あの宙間へ……!? 正気か!?」
「もちろん。そしてここからが本題。調査の結果、この金属は地球製ではありませんませんでした。強度・弾性などどれをとっても地球の金属と比較にならない純度でできています。少なくとも、これと同等の金属が出来なければヴァッフェリーゼは動く棺桶になるでしょうね」
息を飲む音が聞こえる。
喜ぶのはまだ早いという現実を突きつけられた形となる。
「なので、政府とWDMには金属を作るための工場をまだ被害の少ないグレイスに作って欲しいのです」
「宇宙……。地上の方が土地があるが……」
「いえ、やはり空気がある地上だと製造工程で空気が入ってしまい強度に不安が残ります。今までは土地のある地上で生産していましたが、今後ヴァッフェリーゼに使う金属は――」
エルフォルクが話している途中、部屋中にアラートを告げるサイレンが鳴り響いた。
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