第21話 最後の願い

 カウベルがけたたましく鳴って、ドアが乱暴に開いた。


「悠斗! いないのか!」


 入ってきたのは和馬と慧一で、泣き崩れた僕の姿に驚いたのか「どうした? 大丈夫か?」と聞いてきた。

 嗚咽で答えられない僕の肩を、和馬が強く揺さぶってきた。


「今、准から電話があった。結菜の居場所、わかったぞ」

「東京と千葉の境にある、〇×附属病院だ」


 東京と千葉の境――!

 それだ!

 聞き取れなくてどうしようかと思った。行くことができず、結菜が消えてしまうかと思った。

 二人にお礼が言いたいのに、息が詰まって言葉が出ない。なだめられてようやく涙が止まった。


「明日……会いに行ってくる。朝一番の電車で」

「そうか。頑張ってこいよ。俺と准は夜明け前に出ちまうから、見送りにも行けないけど」

「二人とも、本当にありがとう……准にも、本当に感謝してるって伝えてほしい」

「ああ、わかってる」

「俺はこっちにいるから、なにか困ったら連絡しろよな」

「うん……ありがとう」


 二人が出ていったあと、僕はすぐに店を閉め、〇×附属病院までの経路を調べた。


「いい友だちもったわね」


 いつの間にかまた現れたあの子が言った。


「悠斗が溺れたあの日から、ずっと変わらず一緒にいてくれるなんて。困ったときには力になってくれて」

「うん……本当にそう思うよ。いつでも力をかしてくれたのは、あいつらだった」

「お父さんとも、いい関係を築けてるみたいだし。膝を抱えて泣いてたくせにさ」

「……泣いてはいなかったでしょ」


 あの子は声を出して笑った。

 初めて会ったときは同じ年ごろにみえたのに、今は女子高生くらいの年齢にみえる姿だ。


「人のこと、怪力女だの超能力者だのって言っちゃって。弱くて小っちゃかったのに、大人になったね。ま、弱いところは変わってないみたいだけど」


 そんな憎まれ口をたたく。それでも、僕は昔から知っているこの子のことは、嫌いじゃない。


「弱いは余計だよ。人はそんなに強くはなれないよ。簡単じゃない。強くなりたいとは思うから、頑張るけどね」

「好きな人ができたら余計にそう思う?」

「……どうかな……でも、そうなのかもしれない」

「悠斗がちゃんと、人を愛することができる人間で良かった。私、これでも結構、心配してたのよ」


 朝一番の電車に合わせた乗り換え時間をメモに取りながら、あの子の言葉を聞いていた。

 ずっと気になっていた。誰にも見えない。ずっと僕の前に現れるこの子は――。


「キミは本当に……一体誰なんだ?」

「それは、結菜ちゃんに聞きなさい」

「結菜に?」

「明日、頑張ってね。応援してるからさ。ずっと、応援してるから」


 そう言ってあの子は消えた。

 本当にいつも不思議な子だ。

 僕は明日の支度を済ませ、早いうちに眠りについた。

 そして翌朝、ホームで一番の電車を待ち、それに乗り込んだ。

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