第15話 衝撃の告白

 翌日は午前中で講義が終わる。メールをすると結菜も午前中で終わりだというので、和馬と三人でランチに行こうと約束をした。

 今後のレポート提出についての連絡が長引いて、待ち合わせギリギリに門へ向かっている途中、結菜の隣になぜか父の姿が見え、僕は和馬を置いて走りだした。


「結菜!」


 庇うように腕を回して結菜を背中に隠し、父の前に立った。


「父さん、こんなところまで来てどうしたの?」

「うん、このあと一緒にご飯でもどうかと思って訪ねて来たんだ」

「……僕と?」

「少しばかり話しもあってね。どうかな?」


 これまでこんなことはなかった。会わずに帰っても連絡もよこさなかった父が、突然こんなことを言いだすなんて。

 それに話しって……一体なんだというのか。


「そりゃあないぜ、おじさん。悠斗、普段は家の手伝いでなかなか一緒にいられないんだぜ? 今日はこれからみんなで飯に行く予定だったのにさ、割り込みはないよ」


 遅れてやってきた和馬がそう言った。


「そうか……先約があるんじゃあ仕方ないか……しばらく仕事でこっちにいる予定だから、また別な日にでも都合を合わせてくれるか?」


 父は考え込む様子を見せてそう言う。僕はメモを出して携帯番号を書くと、それを父に渡した。あとで連絡をくれるように伝えると、父から目を話すことなく今の気持ちを言葉にした。


「結菜に構わないでほしい。結菜と関わろうとするなら、さすがに僕も黙っていられないから」

「おまえが俺に向かってそれを言うか。まあいい。おまえがなにをどう思っているか知らないけれど、彼女をどうこうするつもりはないから、安心しなさい」


 父は僕と結菜を交互に見て、軽く鼻で笑うとそう言った。

 そのまま大通りへ出てタクシーを拾い、帰って行った。後ろ姿を見送りながら、緊張で震える手をギュッと握ってごまかした。


「よし! そんじゃ、飯食いにいくか!」


 不穏な空気を払うように和馬が手を打ってそう言った。学校近くでランチをとったけれど、僕の頭の中は父さんのことばかりになってしまっていた。いつ携帯が鳴るかと思うと、気が気じゃない。

 結菜は夕方からバイトもあるから、ランチのあとはそのまま解散した。


「おやじさん、こっちに来てたんだな」


 帰りの電車の中で、和馬が言う。


「昨日、帰ったら店にいた。なにも聞いていなかったから驚いた」

「話しがあるって言ってたな。しばらくこっちにいるらしいし……爺さまはなにも言ってこないのか?」

「爺さまには少し前から今後の進路について話そうとは言われてるけど……父さんには関係ない話だし」

「結菜にはおやじさんのこと、話したのか?」

「うん……昨日。和馬……なんだか嫌な予感がするんだ。不安って言うか……怖いんだよ」

「まあ、あまり気にすんな。連絡が来たら、爺さまと一緒に良く話し合ったらいい」

「……今さら……なにも話すことなんかないよ……」


 その夜、本当に父から連絡があった。今後の僕の進路について、爺さまを含めて三人で話し合うため、土曜日は時間を空けておくようにと言われた。

 なぜ突然、そんな話しになるのか理解できず、その週はなにをしても気が入らなかった。結菜とも会う時間がとれず、メールでの連絡だけにとどまっている。


 土曜日の朝、爺さまは買い出しに行き、そのまま父を迎えに行って十四時ごろには戻るといった。

 店を開けるのは午前中だけで、昼には店を閉めて片づけを始めた。

 カラコロとカウベルが鳴る。


「すみません、今日はもう終わりで――なんだ、笑子か。今日はどうしたの? 准は一緒?」


 やけに怖い顔をして笑子は店の中に入ってくると、カウンターに一枚の写真をたたきつけるように置いた。

 笑子の正面に立ち手もとをみると、写真は裏返しだ。


「なに? どうかした? 准となにかあったの?」

「――私、准とは別れる」

「……え? ちょっと待って、一体なにがあったの? 急にそんなことを僕に言われても……准と話し合って……」


 笑子は写真を表に返して僕の前に押し寄せると、強い口調で言った。


「私、ずっと悠斗が好きだった。悠斗、こんな女とは別れて私とつき合ってよ!」

「なにを……」


 写真に視線を落とした瞬間、全身から血の気が引いたような気がした。

 ラブホテルから出てくる車に乗っているのは、父と結菜だ。


「……これ……どこで……」


 椅子に足を乗せてカウンターに身を寄せた笑子は、そのまま僕の首に手を回して強引にキスをしてきた。

 また、カラコロとカウベルが鳴っている。

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