第14話 崩れてゆく関係

 涙がポロポロとあふれた。結局、悠斗はなにも言ってくれないままで、笑子となにがあってあんなことになったのかもわからない。

 それになにより、あんな写真がどうしてあるのか。和馬も疑っているようだ。

 冬子が私の涙に気づき、肩を抱き寄せてくれた。


「和馬、とりあえず場所変えよう。車だしてよ」

「わかった。ちょっと待ってろ」


 和馬が車を取りに行ったのを見送ると、冬子がハンカチを差し出してくれた。


「結菜、なにがあったのかちゃんと聞かせて。私は結菜が悠斗以外と、あんなところに行くわけないって信じてるから」

「冬子……私……どうしよう……悠斗が……」


 嗚咽で言葉が繋がらない。冬子になだめられながら、やってきた和馬の車に乗ると、国道沿いのカラオケボックスに入った。


「少しは落ち着いたか?」


 三人で注文した飲み物を飲んでから、和馬が問いかけてきた。


「うん……二人とも迷惑かけてごめんなさい」

「そいつは構わないんだけどさ。とりあえず、おまえとおじさんが、なんであんなことになったのか聞かせてくれよ」


 私はあの日、バイト先に偶然悠斗のお父さんが現れたところから、順を追って話した。

 お爺さんを含めて三人で話しをすることも、お父さんが悠斗をどう思っているのかも。


「……話しはわかったけど、あの写真がなぁ」

「あんな写真、笑子はどっから手に入れたのよ。っていうか、あんなタイミングであんなところ撮れるなんておかしいと思わない?」

「まあな。偶然みかけたにしても、場所が場所だからなぁ……」

「でも私、本当にあんな場所知らない! 送ってもらった数十分、一緒にいただけなのに……」

「つーかさ、結菜、悠斗の事情は聞いてるんだよな? 悠斗がおやじさんをどう思ってるのかも」

「……うん、前に一度だけ聞いた」

「そんならさ、なんだっておやじさんについていったんだよ? 頑として断ること、できただろ?」

「だって……悠斗の話しを聞かせてほしいって言われたら……」

「だからさ、あの日、悠斗がおやじさんにあんな態度とってるの見てただろ? 悠斗の気持ちを考えたら関わるなんてできないだろ」

「そんなこと言ったって……」

「悠斗の気持ちがわかんないのかよ? あいつを気づかうこともできないんだったら、悠斗の彼女なんてやめちまえよ!」


 苛立った様子の和馬がそう怒鳴った瞬間、冬子の平手が和馬を打った。


「なに言ってんのよ! サイッテー……あんたがそんなこと言うなんて思わなかった!」

「いきなりなにすんだよ!」

「どう考えたって、悪いのは笑子でしょ! 結菜はなにも悪くない! 彼女をやめろだなんて、あんたよくもそんなこと言うわね!」

「だってそうだろ? 悠斗は嫌がってるのに!」


 和馬の言葉が私の胸に刺さった。確かに和馬の言う通り、悠斗の気持ちを考えたら送ってもらうのは断るべきだった。


「あっそう。だったら、あんたの彼女なんて、私もやってらんないわね」

「なんでそうなるんだよ」

「だってそうでしょ。あんたは結菜の気持ちを気づかうこともできないんだから」

「ああそうかよ! だったら俺たちも――」

「――やめて!」


 和馬が最後の言葉を言いきる前に、大声でそれを止めた。


「お願いだからやめて。二人がいがみ合う必要なんてないんだから……和馬の言う通り、私がバカだった」

「そんなことない。結菜はなにも悪くなんかないよ」

「冬子……ありがとう。でも本当に、悠斗の気持ちをもっとちゃんと考えるべきだった」

「結菜……」


 私は立ちあがり、自分のぶんのお勘定をテーブルに置くと、部屋のドアに手をかけた。


「二人とも、今日は本当にごめんなさい……お願いだから、仲直りしてね。二人は絶対に、別れたりしないでね」


 それだけを言い残して、私は足早にその場を離れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る