第15話 選んだ道
どんなに傷ついても、日常は止まることはない。カラオケボックスを出てから、どうやって帰ってきたのかもよく覚えていないけれど、今日もバイトがあるから家を出た。
考えることが多すぎて仕事に身が入らず、私は何度もミスをした。店長には怒られてしまい、同僚には心配されたけれど、私の頭にはなにも入ってこなかった。
喫茶店のドアを開けた瞬間に目に入ってきた光景と、笑子の言葉がぐるぐるとめぐり、油断すると泣いてしまいそうになる。それでもなんとか仕事をこなし、私は帰路についた。
ぼんやりと駅までの道を歩いていると、車のクラクションが聞こえた。悠斗かと思って振り返った私の目に入ってきたのは、悠斗のお父さんだった。
ひどくあわてた様子で車から降りて駆け寄ってくると、まず私に頭を下げてきた。
「悠斗から聞いたよ。とんでもないことになってしまったようで、本当に申し訳ない」
「いいんです。誰も悪くありません。ただ、私の考えが足りなかっただけなんで」
また涙がこぼれそうになり、私は必死でこらえながら足早にその場を離れようとした。そのあとを追ってきた悠斗のお父さんに腕をとられ、私たちは立ち止まった。
「私からだと悠斗もなかなか話しを聞こうとしてくれなくてね。きちんと説明して、誤解が解けるようにしないといけないだろう? 悠斗と話し合えるよう時間を作るから、キミにも……」
「私……行けません。悠斗が呼んでくれたわけでもないのに……そんな場所には行けません」
「そういっても、キミだって誤解を解かなければどうしようもないだろう? まずは話し合わなければ、なにも先に進めないじゃあないか」
「それでも、私、行けません。お父さんに誘われたからなんて……悠斗にもみんなにも、本当に思慮が足りないって思われてしまう……」
「そんなことはない。思慮が足りなかったのはこちらのほうだ」
「それなら! 思慮が足りないって思っていただけるなら、どうしてここへ来たんですか! もう来ないでください! こんなところ……また誰かに見られたら、今度こそ私は悠斗に……」
――嫌われてしまう。
それ以上、言葉が継げずに私はワッと泣き出してしまった。
「……確かにそうだね。キミの言う通りだ。もう来ないから、安心してほしい。ただ、今日は送るから車に乗りなさい」
私は泣きながら首を振った。悠斗のお父さんは小さなため息をついた。
「そんなに泣いていたら、電車には乗れないだろう? もうすぐ終電も出てしまう。タクシーだってつかまるかわからないし、こんな時間にここから歩いて帰らせるわけにもいかないんだから」
悠斗のお父さんはためらいがちに私の手を取ると、助手席ではなく後部席のドアを開けた。
後部席なら大丈夫だろうか……?
私は運転席とは反対側の席におさまり、車が走り出した。
「今夜は裏通りじゃなく、大通りを使って帰るから、心配しなくていいよ」
私は嗚咽したまま小さくうなずいた。
この選択が、私の人生を大きく変えるとは思ってもいなかった――。
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