第13話 向けられる悪意
それから数日後、私は和馬と冬子、慧一と
ドアを押し、カラコロとカウベルが響く中、まず目に入ったのは、カウンター越しに悠斗と
笑子は准の彼女のはずなのに……。
刺されたような痛みが胸いっぱいに広がり、動くこともできない。
先に入った和馬と冬子も立ちすくんだままだ。
椅子に膝をついてカウンターに身をのりだし、悠斗の首に手を回したままの笑子が驚いた顔でこちらを向いた。
「なにやってんだおまえら!」
後ろから准に突き飛ばされ、私は前にいた和馬に体当たりをしてしまい、よろけたところを冬子に支えられた。
「悠斗! これはどういうことなんだよ!」
准は笑子の手を乱暴に引き離して椅子からおろした。笑子はその手を力いっぱい振りほどき、私を睨んだ。
「どうもこうもないわ! 私はずっと悠斗が好きだった! 准じゃなくて悠斗が! それなのに結菜なんかと……」
「俺じゃなくて悠斗……? ふざけんな! だったらこれまでのことはなんだって言うんだよ!」
准が笑子の肩をつかんだ。笑子はまたその手を強く払いのける。悠斗は黙ってカウンターに目を落としたままだ。
「まてまてちょっとまて! 状況がまったくわからないぞ。悠斗、どういうことなのか説明……」
割って入った和馬が悠斗の向かい側に立ってそう言いながらカウンターに視線を落とすと、言葉を詰まらせて私を見てから笑子に視線をうつした。
なにがなんだかわからず、私も冬子も立ちすくんだままで、慧一と葵に至っては、最後に入ってきたから状況すらつかめずにきょとんとしている。
「結菜、おまえ……こいつは一体どういうことなんだよ?」
そう言って一枚の写真をこちらに掲げてみせた。冬子と二人、歩み寄って写真をみた。そこに映っていたのは私と悠斗のお父さんが車に乗っているところで、隣の建物はラブホテルだった。まるでそこから出てきたかのように見える。
「結菜……これ……どういうこと?」
冬子にも同じように見えたのだろう。私の顔をのぞき込んでそう聞いてきた。
「結菜は……その女は悠斗とつき合っていながら、悠斗のお父さんとそんなところに行ってたのよ! こんな女とつき合ってたって、悠斗は幸せになんかなれない! 悠斗は私が……准と別れて私が……!」
笑子の言葉に准は笑子をひっぱたいた。パンと大きな音が響く。
「やめろよ准。笑子、僕は……もしも……万が一結菜と別れたとしても、笑子とつき合うことは絶対にないから。それだけはあり得ないから」
「そんな……なんでよ? なんで私じゃだめなの?」
悠斗はうつむいたままで、それでもハッキリとそう言った。笑子が悠斗に抱きつきそうな勢いでカウンターに身をのりだした。それをまた准が引き寄せて止めると、悠斗を睨んだ。准のほうは今にも悠斗に殴りかかりそうだ。
「人の彼女に手を出しておいて良くそんなことが言えるな!」
「准、よせよ。とりあえず落ち着け。慧一、悪いけどちょっと葵と一緒にこいつら連れて、出ててくれないか」
「あ……ああ、わかった」
出ていこうとする慧一の耳もとで「詳しい話し、聞いといて。あとで連絡する」と言ったのが聞こえた。
准に対して悪態をつきながら、私に対しては暴言を放つ笑子を、葵がなだめながら外へ連れ出した。
店内が一気に静まりかえる。
「で……結菜、これは?」
「知らない! 私、確かにこの間、悠斗のお父さんと会って自宅近くまで送ってもらったけど、こんなところに行ってない!」
「だけどこれ、どう見たってラブホから出てきたところだろ?」
「違う! 本当にこんなところに行ってないから!」
「だいいち、この間、学校で悠斗がおやじさんに関わるなって言ってただろ? 家に送ってもらう状況ってなんなんだよ?」
「それは……バイト先に偶然みえて……」
「偶然来たから送ってもらったってのか?」
ずっと黙っていた悠斗が大きなため息をついた。カウンターに置かれたままになった写真を伏せると、一番はしに寄せた。
「今日、このあと父さんが来るんだ。爺さまと三人でちょっと話しがあってね。悪いんだけど、今日はこのまま帰ってくれないか?」
「あ……ああ、わかった」
「……結菜、今日は送れない。ごめんね」
私は黙ったまま首を振った。三人で話しがあるというのは、きっとこの間、悠斗のお父さんから聞いたことだろう。
和馬と冬子に促されて、私たちは店を後にした。
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