第12話 車の中で
「学校では悠斗は元気に過ごしているんだろうか?」
悠斗のお父さんは慣れたふうに運転をしながらそう聞いてきた。
「私は学部が違うので、構内での様子は良くわからないんですけど、サークルが同じで……」
そう言ってサークルでの様子や、普段、一緒にいる時の話しを伝えた。
時々、悠斗のお父さんから質問されたりしながら、十分程度たったころ、悠斗のお父さんが言った。
「実はこっちへ来たのは、仕事の関係もあるんだけれど、父……悠斗の祖父と、悠斗のこれからのことを話し合うためなんだ」
お爺さんももういい歳で、今後なにがあるかわからない。悠斗も今はお店を手伝っているけれど、この先、続けていくことをどう考えているのか。もしかするとほかになにか夢があるんじゃないか。そうだとしたら、店をどうしていくのか、それを話し合いに来たという。
「例えば東京へ出てなにか別の仕事につきたいとか、やりたいことがあるとか、そんな話しを聞いたことはないかな?」
「ありません。悠斗が今の大学に入ったのも、お店を続けるために経営に関しての知識がほしいからだって聞いています」
「そうか……」
悠斗のお父さんは黙ってしまい、私は窓の外へ目を向けた。いつも悠斗と通る道とは違って、どうやら裏道を走っているらしい。
「悠斗から、うちの事情は聞いているかな?」
「はい……少しですけど……」
「もう何年も会っていなかったから、あんなに大きくなっていたことに驚いたよ。昼間も、あんなふうに挑んでくるとは思わなかった。よほどキミのことが大切らしい」
そう言って声を出して笑った。こんな雰囲気は、やっぱり親子だからなのか、悠斗と似ている。
「ずっと会っていなかったからと言って、あの子に対して全く無関心だったわけではないんだよ。もちろん幸せになってほしいと、心から願っている」
ただ、会っていなかった時間が長すぎて、実際に向き合うとどうしていいのかわからなくなる。
置いて出てきてしまったことを、どう思っているのかもわからない。なにが好きで嫌いなのか、それすらわからずに戸惑うばかりだと言った。
(悠斗のお父さんも、きっと不安なんだ……)
漠然とそう思った。
いつもと違う道を通ってきたから景色が違って、市役所を見落とすところだった。
あわてて降りる旨を伝え、車をとめてもらった。
「あの……私が言うのもどうかと思うんですが……そういうお話しは、きちんと悠斗に伝えてあげたほうがいいと思います。私が聞くのではなく、悠斗が聞くことに意味があると……悠斗もきっと、お父さんの気持ちを知りたいって思っているはずです。わだかまりがあるのなら、なおさら……言葉にしないと相手には絶対に伝わりません。私はそう思います」
「……そうだね。今日は突然だったのに、ありがとう。つき合わせてしまって申し訳なかったね。悠斗にも、関わるなって言われていたのに」
「……いえ。私のほうこそ、送っていただいてありがとうございます」
「それじゃあ、気をつけて帰りなさい。悠斗ことも……どうかよろしくお願いいたします」
私は恐縮しながら降りると、走り去る車に深く頭をさげた。
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