第8話 突然の告白
それからは、いろいろなことがあっという間に過ぎていった。
大学では学部が違うから、やっぱりサークル以外で会うことは少なかったけれど、時々は一緒に学食でお昼を食べたり、休みの日には一緒にあちこちのカフェに出かけたりもした。
深沢くんの聞いた清水くんとの噂は、深沢くんと同じ学部の女の子が流したとわかった。
友だちの果歩の話しでは、深沢くんのことが好きでモーションをかけていたのに、深沢くんの視線がいつも私に向いていたからだという。
私自身、そんなに見られているなんて知りもしなかったし、見ているのは私のほうだけだと思っていたから、それを聞いて複雑な気持ちになった。悪意を向けられて噂を流されたのも初めてのことで戸惑ったけれど、今はそんな噂にも悩まされることなく過ごしている。
深沢くんのお店にも、ほぼ毎週のように通うようになって、お爺さんとも親しくさせてもらうようになった。
気がつけば、佐野くんや保坂くん、望月くんとも仲良くなり、彼らの彼女たちを含めてバーベキューをしたりもした。
目まぐるしい変化に流されながらも、私は深沢くんの前では、決して気取らず自然体でいるように心がけた。
初めて気持ちを伝えた日に、お互いのことを知るところからつき合っていこうと言われたのに、良くみせようと着飾って向き合うのは違う気がしたから。
数カ月たったクリスマス・イブの日。
その日はちょうど土曜日で、私はまた深沢くんのお店にお邪魔しに来ていた。
街じゅうどこへ行ってもクリスマスムードで、少し前からあちこちがイルミネーションで飾られていた。
白樺並木にも青と白の電飾が灯り、商店街のお店の窓には、デコレーションやスノースプレーで飾り付けがされていた。
「それじゃあ爺さま、ちょっと広瀬さんを送ってくるから」
「ああ。今日はもうこのまま上がっていいぞ。店ももう閉めるからな」
「わかった。ありがとう。じゃあ、行こうか」
「うん。それじゃあ、ごちそうさまでした」
お爺さんにあいさつをして、お店を出た。
このあたりは山のほうは雪が多いけれど、平地はそれほど積もらない。けれど吹きおろしの風が強くて、冬はなかなかに寒い。今日も凍えるような寒さだ。
「今日、少し遅くなっても大丈夫かな?」
不意にそう聞かれた。特に予定もないし、さすがに今日は果歩やほかの友だちも、彼氏とのデート中。
「うん。特に予定もないから大丈夫だよ」
「そっか。実は一緒に行きたいところがあるんだ」
そういって走り始めた車は、線路を越えて川を越え、山道に入っていった。
このあたりは確か、有名なキャンプ場と公園があるあたりだと思う。
この寒さで、まさかキャンプはないと思うけれど……。
(もしかすると、佐野くんたちと待ち合わせてなにかするのかな?)
うねった道を進み、たどり着いたのは思った通り有名な公園だった。
深沢くんは車を止めると、寒いから、と言って私にマフラーをかけてくれた。
先に車を降りると急ぎ足で助手席まで来てドアを開け、私の手を取った。こんなことは初めてで、戸惑う。ドッキリでも仕かけられるんだろうか?
手を引かれて連れていかれたのは、盆地が一面に見下ろせる高台だった。
あまりにも奇麗な夜景に言葉を失っていると、深沢くんがホッとしたように「良かった~」といった。
「なにかあったの?」
「今日はイブだし、もしかすると混んでるかもって思ったんだ。でも、ちょうど夕飯時だし、夜景を見るには少し早いでしょ。思ったより人がいなかったからさ」
手を繋いだまま、二人並んでしばらく夜景を眺めていた。周りに数組のカップルはいるけれど、互いの話し声も聞こえないほどの距離は保てている。
ぽつりと深沢くんがつぶやいた。
「今日は広瀬さんに聞きたいことがあって……」
「うん? なにかあった?」
繋がれたままの手にギュッと力が込められる。
「前に……その……僕のことを好きだって言ってくれたこと……まだ変わらないのかな? もしかしてほかに好きな人ができたとか……」
「そんなわけないじゃない! ひどい! そんなふうに思っていたの?」
「そうじゃなくて……ごめん、ちゃんと聞いておきたくて」
「……変わらずずっと好きだよ。ううん、前よりもっと好きになってる。だから……」
そんなふうに思わないで――。
言い終わる前にギュッと抱きしめられた。
「良かった……気持ち変わってたらどうしようかと……前は、はっきりしない返事しかできなくてごめん。僕も……僕は広瀬さんのことが好きだ」
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