創作の虚言とリアリティ
年明けて、私は兄の通う学校に合格した。兄に負けないことを証明するんだ。そういう意気込みで新たな場所で、スタートをきった。でも、その生活は思っていたものと違った。
学校では、成績も交遊関係も全てが中学の頃のようには進まなかった。学力が同じようなレベルの人たちが集まるこの場所で、私だけが上手くいくことなんてそうそうない。みんなも同じように努力を重ねているのだ。
それは重々承知していたはずだった。それでもどこかで、私には驕りがあったのだ。ちょっと他人よりも目先がきた、器用だった、それを才能と勘違いしていた。優秀な兄がいるという環境に甘え、ひらめきという持続効果の切れやすいドーピングをしていただけに過ぎなかった私が、人より先に立ってなお愚直に努力を繰り返す兄に勝てる道理はなかった。
それに気づき、私は初めて兄との大きな超えられない隔たりを感じた。今までの常識を覆されたように心のパラダイムシフトが起こる。
信じてたものが信じられなくなって、気持ちが迷い始める。はじめての挫折、高い高い壁の前で蹲ることしかできない私の心。見上げるその隔たりから目をそらすことができなかった。乗り越えねばと思うほど、プレッシャーに押し潰される。
「所詮私は、井の中の蛙だったのね」
呟く声が窓を打つ雨音に掻き消える。窓を濡らし、落ちる水滴はまるで頬を伝う涙のよう。空模様が心を映し出している。
あれから日を追うごとに、心の枷は重くなった。それに伴い気持ちも深く沈むようになり、成績もおちた。沈む心に次々と打ち込まれる「くい」。覆いつくされるほど、不安飲み込まれた心には、希望の影は差さない。
絶望はすでに過ぎ去った。残ったものは、何もなかったと思うようになった。天真爛漫な以前の自分は見る影もなく、ひっそりと息を殺すように生きている。死んでも生きても何もない。どうにもならないのだし、どうにもしたくない。考えることすら放棄した。
家では毎日のように、兄から心配だという声掛けをもらう。それに対して微笑みながら、心の片隅にもない張りぼてでうわべだけの言葉を返す。これ以上私に関わってほしくない。そんな思いがあったかもしれない。お前のせいで私は死んだんだって理不尽なことを言っていたかもしれない。
でもそれも、一つのありふれたどうでもいい日常という過去に消えた。記憶にも残らないような価値のないワンシーン。綴る記憶の物語もこれ以上のことがない。この期間だけ、ぽっかりと穴が開いている。
学校に行く作業、試験を受ける作業。何もかも機械的にするだけの青春時代。人じゃないと、一人の生徒が言った。まわりのクラスの人間は、それに便乗した。まるで人形だと、彼らは言った。奇麗な容姿なのに、どこか不気味な感じがするから。死人に宿った化け物じゃないか、なんてうわさも流れた。
それによって、受けるいじめも言葉もすべてはどうでもいいこと。からっぽの心身にはどれも届かない。抜け殻の体は見た目上傷つけども、動じることはない。それをみて、いじめは加速した。頻度も規模も拡大し、やり方もきたなくなった。暴力が何気なしに振るわれる。計画性のあるいじめも増えた。
そこで、教師が気づき集会や家庭連絡が行われた。さすがに教師が動くと、一時的に頻度は減った。それでも、おさまりきるはずはなかった。収まったと判断した教師が手を引いた瞬間に、それらは暴発した。
過激になるいじめに最初は止めに入った教師陣も、こたえることのない私をみて次第に放置するようになった。何に恐怖したのだろうか。私か、それともいじめる側のなにか、だろうか。いずれにしろ、結果は黙認された。いじめがあることを全力でもみ消しにかかった。これも、よくある一般的な社会的現実なのだ
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