思い出も、鮮明に
私が、最初に覚えている。兄の印象は不思議な人だった。泣きじゃくる私を必死の形相で宥めていた。あれやこれやってあわあわしながら、笑えるように頑張ってくれた。そんな兄を不思議に思っていた。
それからは兄の背中を見続けていた。何か鬼気迫る様子で、いつも何事にも取り組み、周りからはとても優秀だと評価」される結果を出していた。そんな兄はかっこよくて、私も兄みたいになりたいと思った。私も負けじと兄みたいに良い成績をとろうと頑張った。私も兄も小学校と中学校も、クラス委員や生徒会をこなし、学年隔てなくみんなに好かれ、人気者だった。そんな兄は、よく遊びや勉強会に誘われていた。それでも、ちゃんと私の面倒をみてくれたし、遊んでくれた。いつも優しくて、周りに気を配って誰に対しても平等に時間を取る私にとって憧れで尊敬する兄だ。
県内で一番の学校に兄は合格し、兄は涙を流して喜んだ。私もその学校に行くんだと、目標を立て兄がいなくなった中学生活と受験勉強をこなしていった。受験勉強をしながらの生活はしんどい時もあったけど、そういう時は必ず兄が支えてくれた。
秋のある日、私がテスト勉強をしていた時のことだった。その日は、委員会の仕事、部活の課題、テスト勉強が重なり無茶なスケジュールで夜遅くまで勉強していた。間もなく一時を回ろうかという時に、不意にノックの音が聞こえた。夜遅くに自分の部屋を訪ねてきた人物はやっぱり兄だった。
「夜遅くまで頑張ってて偉いね。こんな夜中にどうしたの?」
「やることが多くて」
「うん。でもね、体を壊しちゃ元も子もないでしょ。徹夜はダメだよ」
兄は手際も良くて必ず10時には寝る習慣がある。夜遅く起きていても絶対に日をまたがない。それでいて、現在も高校で成績トップを維持している。やっぱり兄は凄い。
「…お兄ちゃんのようにはできないです」
「ふふ、人それぞれペースってあるからね。俺もそんなに凄くないよ。夜遅くまでバイトして部活もしてるのに勉強しているそぶりはない、それでも一桁の順位を取るような奴もいるからね。俗に言う天才って奴だろうね。それに比べりゃ俺は凡才よ」
そうおっしゃるけれども、そんな人を超えて一位をとる兄はやっぱり凄いんです。兄のようになりたい。だから、勉強に戻らなきゃ。勉強机に向き直ろうとした時、ふらっとした。
「ほらな、勉強のしすぎだ。寝ろ寝ろ。明日やればいい」
兄が肩を支えながら、笑いかける。でも、やらなきゃいけないんですと言うと、たまにはいいじゃないかと返ってくる。それを素直に受け止めて、ベッドに向かった。
「おやすみ、いい夜を」
「おやすみ」
不思議とぽかぽかしてる体を布団で包み、眠りにつくのだ。
次の日、起きると委員会の仕事は終わっていました。寝た後で兄がやってくれたみたいだ。やっぱり兄は優しくて偉大だ。
意識が戻ってきて、俺は温かいものが頬を伝っているのを感じた。意識がなくとも、体が勝手に反応してるようだ。嬉しかった。あの時は、立派な兄になろうと必死だったなって懐古の念が刺激される。無駄じゃなかったと、成果があったんだとホッとする。
「あまり長時間読まれていますと、人格と精神が変質していくので一度やめさせていただきました。長時間の読書は体に良くありませんので」
それでは再開します、と再び俺の意識は閃光に埋め尽くされた。
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