中学校
次の日は月曜日だった。さすがに学校を休むわけにはいかない。
昨日の様子から、優希も中学に進学している。彼は中学受験をしなかったから、同じ中学校に通っているのは確かだ。優希が同じクラスかはわからないけど、同じ校舎内に彼がいるだけでも十分に心強い。
「おはよ、アキ」
玄関を出ると、もう道路で優希が待っていた。中学に上がることなく死んだはずの優希が、学生服に袖を通している。ウソみたいな光景だが、ウソじゃない。目の前に実在している。その事実だけで、僕は泣きそうになった……というか、こらえきれずに涙をためてしまった。
「おいおい、アキどうした」
「いや……その……」
泣いている理由なんか言えない。言ったってどうしようもないことだ。
「……アキ、昨日からちょっとヘンじゃないか? なんというか……涙もろすぎるというか、いきなり泣き出すなんて」
その言葉を聞いた僕は、ハッと顔を上げた。そりゃあ二回も急に涙を流したのだから、妙だと思われても仕方ない。その理由を言えないのはもどかしいけれど。
それから、僕らは校舎に入った。優希はどうやらB組で、僕のいるC組とは違うらしい。優希と違うクラスだったのは残念だった。
僕の足は重かった。教室に味方はいない。今日はどんな嫌がらせをされるのか……
「はぁ」と大きなため息をついて、教室に入ろうとしたそのとき……僕の目の前に、四人の男子が立ちふさがった。僕は喉元がキュッと締まるような感覚に襲われた。
……こいつらは、イジワルな連中だ。こいつらのせいで僕は追い詰められて、それで……
「おっ、柿澤おはよ」
「あの絵柿澤が一人で描いたん? マジですげぇよ」
「俺なんて絵とか全然描けねぇからさぁ」
……なんか様子がヘンだ。こいつらが僕の絵を褒めるなんて。「一人で絵を描いてるジメジメした根暗」みたいな誹謗中傷を加えてきたこいつらが。
「あの絵って?」
「これだよこれ。先週の美術の授業でさぁ、めっちゃすごい絵描いてたじゃん」
そう言って、四人組の一番右に立っている黒山が教室外の壁を指さした。壁には美術の授業で描いた水彩画が掲示されている。黒山が指さしているのは、青空を衝かんばかりにそびえ立つ灯台の絵だった。
あれは確か……金曜日の課題で仕上げたやつだ。金曜日に居残りで仕上げたけれど、そのときちょうど美術の先生は美術室にいなかった。乾かしている間に職員室に行って、作品が完成したことを報告した。
けれども……美術室に戻ると、僕の絵はズタズタに切り裂かれていた。僕が職員室に行っている間に、悪意をもった誰かがやったんだろう。結局、破れた絵は週明けに直すことになって、一旦先生が美術準備室に保管したのだった。
そんな絵が、万全の状態で飾ってある。変わっているのは、優希やお父さんの件だけではないらしい。
僕は趣味で絵を描いているけど、中学では何の役にも立たななかった。周りから評価されるとか、一目置かれるとかはなくて、ただ根暗のレッテルを貼られただけだった。
……でも、この世界じゃ違うみたいだ。
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