第23話 大好き



 味噌汁のいい香りで目が覚める。

 次第に料理をする音が鮮明になり朝の訪れを感じた。


「あっ、和倉くん起きた?」


「おはよ、小舞子さん。早いね」


「今日は学校行くからさ。お弁当作っていかないと」


「うわそうじゃん。学校行く途中コンビニ寄らないとな……」


「何言ってんの。私が作ってあげてるっての」


「……もう奥さんじゃん妻じゃん」


「あなた、早く起きて♡」


「うえーい」


 ベッドから起き、キッチンに向かう。


「家庭的な小舞子さん好きだなぁ」


「ふふっ、いい奥さんになれそうじゃない?」


「十年後が楽しみだ」


「全く、調子のいいことばっかり言って」


 しょうがないじゃないか。

 小舞子さんが可愛すぎるんだから。


「今抱きしめたら小舞子さん、怒るかなぁ」


「本人に聞いてどうするの? ……まぁ、やってみたらいいんじゃない?」


「……やっぱやめておこう?」


「な、なんで⁈ そこは普通やる流れでしょ?」


「なに小舞子さん、俺にハグされたいの?」


「……別に?」


「じゃあこの話は終わりだね。朝食を待つとしますか」


 小舞子さんが怒ったように俺のことを睨んでくる。

 これも可愛い。俺どうすればいい?


「早くハグして」


「え? 聞こえないなぁ」


「ハグして!」


「あははっ、分かったよ」


 小舞子さんにハグをする。

 

 小舞子さんの匂いに満たされて幸せを感じた。

 それと同時に俺と少し同じ匂いもしてなんだか気恥ずかしくなった。


 その後、さくっと朝食を済ませた俺たちは登校の準備をし二人並んで学校に向かった。


「一応三人には連絡してるけど、直接言おうな」


「うん、分かってる」


 そう答える小舞子さんの手は少し震えていた。


「大丈夫だよ、あの三人のことだから。それに俺もいるから」


 強く握ると小舞子さんの震えが止まり頬を緩ませた。


「ありがとう、和倉くん」


 きっと大丈夫。

 そう思わせてくれるほどに小舞子さんは決意に満ちた顔をしていた。








 教室の前で立ち止まる。

 一度俺の方を見て頷くと、ふぅと息を吐いてドアに手をかけた。


 がらりと音を立てて扉が開く。

 集まる視線。


 ごくりと小舞子さんが唾を飲む。

 

「おはよ、みんな」


 一拍置き、そして――


「おはよー」


「おはよう小舞子さん」


「雅ようやく来た!」


「風邪大丈夫?」


「今バリバリ低気圧だもんねー」


「おはよ!」


 温かな声に溢れる。

 

 学校一の美少女で、人気者。

 当たり前の日常が、パチッと最後のピースがハマったかのように戻ってきた。


 すでに小舞子さんの席にはあの三人がいた。


「おはよ、雅。ちょっと痩せた?」


「え? なら嬉しいかも」


 能美さん。


「おはよう。久しぶりだね」


「久しぶり、枚方くん」


 レン。


 そして――


「よっ雅! おっはーっ!!!」


「今日もテンション高いね、さつき」


「悪い天気なんて私たちの気持ち次第で晴れにできるっ!」


「いい心構えだな。今日の授業はさぞ一睡もしないんでしょうね?」


「なんか和倉くんが挑発してくるんだけど⁈」


 これが求めていた、取り戻したかったもの。

 やっぱりこんな日々が一番幸せだ。


「でね、体育の授業でさー!」


 いつも通り三人で談笑する。

 それをレンと見ながら自分の席についた。


「やったじゃん、和奏」


「たまにはできるんだよね、俺ってば」


「やるときはやれるよ、お前は」


「……急に褒めてキモイんだけど、口説いてんの?」


「口説いてないわ!」


 今日も平和だ。

 日常が幸せだ。








 一日があっという間に終わり、放課後。

 少し教室で談笑してから帰路についた。


 さっきまで降っていた雨が止み、雲の隙間から光が差す。

 そんな幻想的な景色を見上げながら小舞子さんと並んで歩く。


「いやぁ今日は一段と疲れたなぁ」


「休んでた分が全部来た感じだったな」


「ほんとだよ。でも、楽しかった」


「そりゃよかった」


 にひひ、と子供らしく笑う。


「これも全部、彼氏のおかげですか」


「なんだ急に彼氏とか言い始めて……」


「いやぁ、私に彼氏かぁ」


 小舞子さんも浮かれてるのだろうか。


 ……だとしたら可愛すぎるんですけど。


「不思議?」


「ちょっと不思議かな。でも、嬉しいよ」


「……これが彼女の笑顔ですか。最高かよ」


「いくらでも眺めていいよ? だって和倉くん、私の彼氏だもん」


「もう言いたいだけじゃん」


「へへっ、バレたか」


 鼻歌混じりに歩く小舞子さん。

 少し俺の前に出て振り返るように俺のことを見た。


「あのさ、和倉くん」


「何?」


「言ってなかったから、ちゃんと言っておくね」


「え?」


 眩い光が水たまりに反射する。

 ふわりと揺れるスカート。

 綺麗な金髪がキラキラと輝いて美しかった。


 ——まるで映画のワンシーンみたいだ。




「大好きだよ、和倉くん」




 不意打ちに思わずにやけてしまう。

 

 全く、この人は本当にずるい。



                        完


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


全23話、ありがとうございました!

いやぁ書いてて楽しかった作品だったなぁ


そして、実は新連載を始めます、というかこれと同時に投稿します!


タイトルは

「何故か不登校の俺にプリントを届けに来る人気者のツンデレさん。ツンツンすぎるけど最高にいい人だしデレると可愛すぎるのだが」

です!


今回は新しい試みでカクヨムのみの投稿になっております。なので気になる方は見に来てくれたら嬉しいです!ちなみに、かなりの自信作になっております!


ぜひこれからも本町かまくらをお願いします!

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学校一の美少女の家に泊まって気づけば朝チュン。明らかにヤってるはずだけど誤魔化されて分からない 本町かまくら @mutukiiiti14

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