第20話 思いを背負って
どんよりとした天気に湿気多い空気。
ここ最近は雨が続き、梅雨入りしたのだと実感させられる。
「今日も小舞子さん休みだな」
「……だな」
「ほんとに何も知らないのか?」
「分からないよ」
「そう、か」
小舞子さんが休んで五日が経った。
全く音沙汰がない状況である。
「先生は体調不良って言ってたけど、連絡が取れないのはやっぱ心配だよな」
「だな」
「家にも行ったんだろ?」
「あぁ。だけど留守だった」
「……あんまりこういうこと言いたくないけどさ、それほんとに留守なのか? いつ行っても留守とかおかしいだろ?」
「出ないんだから留守って思うしかない」
「そうだけど……」
レンのやるせない気持ちも分かる。
だけど正直手詰まりな気がしていた。
「やっぱりさ、なんかあったんじゃないか?」
何かは確かにあった。
それは十分に小舞子さんが学校に来なくなる理由にもなりえる。
でもそれが分かっていたところで小舞子さんと話しようがないのだからどうしようもない。
「何か、かぁ」
天気くらいはせめて晴れて欲しいとそう思うしかなかった。
「和倉くん。さっき雅に電話してみたけどやっぱり出なかったよ」
「春咲さん……そっか」
「私も」
「能美さんも……」
「つまり今日も収穫無しって感じか」
「うん、そうだね」
いつも元気いっぱいの春咲さんですらしょぼんとしている。
「とりあえず今日も家に行ってみるよ」
「うん、よろしくね」
今日こそは話ができるといいんだが……。
インターホンを鳴らす。
しかし足音すら聞こえてこない。
「小舞子さん。和倉だけど、今いい?」
声をかけるが返ってこない。
「今日も差し入れおいとくから、賞味期限切れる前に食べてくれ。もったいないから」
ドアノブに三個目の袋をかける。
ふぅ、と一息ついて歩き始めた。
今日は人と会う約束があるため時間を気にしながら待ち合わせ場所に向かう。
喫茶店に到着するとすでに約束していた人の姿があった。
「すみません、今日は呼び出してしまって」
「いえいえ大丈夫です。気にしないでください」
あの時のコンビニの店員さんで、小舞子さんの友人だった理恵さん。
真相を知るために俺が呼び出したのだ。
「それで、早速なのですが教えてもらってもいいですか? どうして小舞子さんはあんなにもあなたを見て動揺したのか」
「……はい。長くなりますけど、話します」
理恵さんが話し始めたのは中学時代の話だった。
「中学の頃から雅はすっごく可愛くて当然のようにモテてました。何人にも告白されて、みんなの憧れる先輩にも告白されて。でも雅は誰とも付き合わなかった。全部ちゃんと断って、私とか他の仲良い子たちとずっと遊んでたんです」
そんな小舞子さんの姿は容易に想像できる。
実際、今とそこまで変わらない。
「でも、ある日雅の下駄箱にゴミが入ってて。いつの日か上履きがゴミ箱に捨てられてて」
「……いじめ、か」
「はい。雅に嫉妬した女子たちの仕業でした。でも雅は……優しいから、だから何も言わずに我慢してた。みんなのことを考えて。でもそれがよくなかったんです」
顔をしかめ苦しみながらも話してくれる。
「そんな雅に対するいじめがだんだんエスカレートして、雅の周りの人間関係が完全に壊れちゃったんです。ぐちゃぐちゃになって、孤立して。私はそんな雅に何もできなかった」
罪悪感から目を背けまいと唇を噛む。
「中学卒業を機に雅が一人で引っ越したのを聞いたのは私が高校に入学してからでした。雅の両親が仕事の関係でどうしても引っ越せなくて、一人で……」
なんで高校生で一人暮らしをしているのかずっと疑問だった。
しかし今の話を聞いて納得がいく。
「ざっくり言うとこんな感じです。たぶん中学時代のこと思い出しちゃうから、私と会った時あんな感じに……」
「なるほど……。とにかくありがとうございました、話してくれて。思い出すだけでも辛いはずなのに」
「いえいえ! 私は……これくらいしかできませんから」
「すごく助かりました」
問題の核心が分かった。
それだけでもかなりの収穫だった。
その後は適当な雑談をしお互いにコーヒーを飲み終えたところで会計を済ませた。
「今日は本当にありがとうございました」
「いえいえ。何かあれば、私にできることがあればまた言ってください」
「はい」
店の前でお開きとなった。
歩き始めると、あの、と後ろから声が聞こえる。
「雅のこと、よろしくお願いします!」
「もちろんです」
また一つ思いを背負った。
あとはどうするか。
頭を悩ませながら駅に向かって歩いた。
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