第13話 燃えろ体育祭!


 

 五月中旬。

 春というにはいささか熱気を帯びており、もはや夏と言ってもいい程に日差しが強い今日。


「がんばれー!!」


「いけいけ!!」


 学校行事の中でも一大イベントである体育祭が開催されていた。

 

「俺たちの種目っていつだっけ?」


「次の次じゃなかったか?」


「なるほど。じゃあもうちょい写真撮りに行くか!」


「元気だなぁお前は」


 体育祭の日だけ誰かと写真を撮ることが是とされる。

 これに乗っかって気になるあの子と……という人が絶えないのだ。


「せっかくクラT着てんだし、お前も撮ろうぜ? ほら、前にお前が可愛いって言ってた沢田先輩も撮ってくれるぞ?」


「レン、お前一眼レフ持ってるか?」


「急に気合入りすぎ」


 ノロノロと立ち上がり、レンの後ろに付いて行く。

 

「それにしたって小舞子さんはもはやアイドルの撮影会だな」


「だな」


 小舞子さんの前には長蛇の列ができていて、もはや実行委員会が列整備をしているほどである。

 できることなら写真を撮りたかったのだが、これでは厳しそうだ。


「やっぱり小舞子さんの人気ってすごいのな」


「学校一の美少女だからね。去年のミスコンだってぶっちぎりの一位だったし」


「そういやそうだった」


 確かに小舞子さんだけオーラが違う。

 普段はただの変態美少女だけど、こうしてみるとやっぱりすごいな。


「そんな美少女と唯一仲のいい男子生徒A?」


「そんなんじゃねぇって」


「ははっ、レンは素直じゃないなぁ」


 ケラケラと笑うレンをじっと睨んで、はぁとため息をつく。


「っておい和奏! あれ沢田先輩じゃないか!」


「一眼レフだ! 一流のカメラマンも呼べッ!!」








『次は二年生、クラス対抗リレーです。出場する選手は、入場門に集合してください』


 アナウンスが流れ、いそいそと移動し始める。


「ついに初陣だね」


「そんな立派なものじゃないでしょ」


「あれ? 意外に体育祭冷めてる感じ?」


「そういう小舞子さんは随分やる気だね」


「私は学校行事フルで満喫する派だからさ」


 そういう小舞子さんは、いつもは下ろしている髪を一つに結びポニーテールにしている。

 おまけに鉢巻をキュッと結んでおり、いかにもといった感じだ。


「だから和倉くんも楽しもうぜぇ?」


「う、うぇーい」


「カラ元気がすごいな……」


 全く和倉くんは、と呆れたようにため息をつく。

 仕方がない。だって俺は運動がそこまで得意じゃないんだから。


「もう、しょうがない。ここは私小舞子が人肌脱ぐとしますか」


「助かる!」


「……言葉通りの意味じゃないからね?」


「うへぇ……」


「ほらそこ、しょんぼりしない」


 ピシッと指を差してくる。


「もし和倉くんが私に一位でバトンを渡してくれたら、お願いを一つ聞いてあげます」


「じゃああの日の答えを……」


「それ以外!」


 そこは抜かりないようだ。

 だけど美少女にお願いを聞いてもらえるというのは思ってもみないチャンスである。


「それはえっちなお願いもいけるんですか小舞子さん?」


「それは……和倉くんの頑張り次第かな?」


「しゃあやるぞお前ら! 俺についてこい!!」


「和倉うるさいぞ」


「田中、やる気出せ!」


「なんで⁈」


 みんなの頑張りが必要です。お願いします。


「やる気出た?」


「見てろよ小舞子さん。今更やめてって言われても俺は止まらないからな?」


「ふふっ、楽しみにしてるよ」








 パンッ!!


 ピストルの音が響く。

 白いゴールテープが風で揺れていた。


「やったよ和倉くん! 私たちのクラス一位だって」


「あぁそうですかそうですか。それはよかったですねえぇ」


「分かりやすいくらいにいじけてる……。まぁでも惜しかったね。あと一人抜ければね」


 三位でバトンを受け取った俺は根性で一人抜かしたのだが、あと一人が抜けなかった。

 つまり、ミッション失敗である。


「えっちなお願い、聞いて欲しかった……」


「二位だから残念だね」


「くっそう……もっと走り込みとかしておけばよかった」


「ドンマイドンマイ。でも一人抜いたときはカッコよかったよ?」


「そりゃどうも」


 自分の足の遅さを呪いたい。

 

 ガチへこみする俺を見て、小舞子さんがクスクス笑う。


「ひとまず今は、私たちのクラスが一位になったことを喜ぼう?」


「……まぁそうだな」


 小舞子さんとハイタッチを交わす。

 小舞子さんが嬉しそうに笑ってるのを間近で見れただけでもいいか。


「和倉くん私たちのクラス一位だーっ!!!」


「ぶへっ!」


 春咲さんが後ろから抱き着いてくる。


「和倉くんナイスランだったよ! ほんと、すごいっ! 私が褒めたるっ!」


「おい春咲さん! 動くな、動かすなーっ!」


 乳圧がすごい、もうすごい。

 あと周りからの視線がヤバいから! ほんと、何こいつみたいな目で見られてるから!


「小舞子さんたすけ……」


「……へぇ?」


「睨まないで! 怖いから、そんなことより解放して!」


「和倉くんないすぅぅぅぅぅ!!!」


「うわぁぁぁああああ!!!!」


 その後、春咲さんが線を越えて走っていたことが発覚しペナルティを受け最下位へと転落したのだった。

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