第12話 妹からの追求



「ヤバい、妹が帰ってきた」


「もうそんな時間なんだ」


 焦っている俺とは裏腹に落ち着いている小舞子さん。

 なんならうっすらと笑みを浮かべているほどだった。


「で、私を妹さんに紹介してくれるの?」


「なんで⁈ というか第一、俺と小舞子さんの関係聞かれてなんて答えればいいのか分からないしな……」


「クラスメイトでいいんじゃない?」


「ただのクラスメイトの女の子と休日二人で家にいるか?」


「じゃあ、セフレ?」


「セフレじゃないし、仮にセフレだとしても堂々と紹介できるわけないだろ!」


 絶対に今の状況を楽しんでいるに違いない。

 どこまで神経が図太いのだろうか。


「でも、今の態勢は少なくともマズいよね?」


「そういやそうだな」


 小舞子さんの上からどき、乱れた服装を整える。

 その間にも、コツコツと千咲が階段を上る音が響いていた。


「さて、和倉くんが私のことをどう紹介してくれるのか楽しみだな~」


 小舞子さんを隠す、というのも手だが玄関の靴で誰かが来ているのはバレているので誤魔化しようがない。

 

 こうなったらその場しのぎで乗り切るしかないようだ。


 ガチャリ、とノックもなしに扉が開かれる。


「兄貴、誰来てる……え」


 数秒固まる。

 そして思い出したようにはっとなった。


「……デリバリー?」


「ちげぇから⁈」


「嘘。兄貴がこんな可愛い人を家に連れ込めるわけがない」


「お前が抱いてる兄貴像がよくわかったよ。あとでシバくからな?」


 確かに今までの俺を知っている人なら、小舞子さんのような美少女と一緒にいるなどありえないと思うだろう。


「じゃあ何? ありえないとは思うけど彼女とか?」


「ありえないとかひどいけど彼女ではないな」


「……じゃあやっぱりデリバリーだ」


「だからちげぇって!」


 俺がデリバリーしちゃうくらい飢えてるように見えるのだろうか。

 それは兄貴としてだいぶ尊厳が失われそうだ。


「普通に同じ高校のクラスメイトで……」


「クラスメイトなだけで家に来る? しかも二人っきりで」


 やっぱりそうくるか。

 ちなみ俺はこの返しを持ち合わせていない。


 逃すまいとする鋭い眼光が俺を突きさす。

 どうしたもんか……。


「あのー、遅くなってごめんなさい。私、小舞子雅って言います。よろしくね、和倉くんの妹ちゃん」


「っ⁈ よ、よろしくお願いします……」


 あの千咲が小舞子さんの美少女オーラに圧倒されている⁈

 だが負けじと小舞子さんに向かっていく。


「あの、小舞子さん。兄貴とどういう関係なんですか?」


「んーそうだねぇ……」


 ちらりと俺の方を見て「私に任せて」と目で訴えかけてくる。

 正直猫の手も借りたい状況だったので「任せた」と頷いて見せる。


 いい塩梅の答え、お願いしますよ、小舞子さん。



「う~ん……特別な関係?」



 あ、コラ。


「や、やっぱり……明らかに状況からしてそうだもんなぁ」


 絶対に何か勘違いしてるだろ。


「休日に私がいない隙を狙って兄貴の部屋で……しかも、ベッドちょっと乱れてるし、小舞子さんの体エロいから兄貴が襲わないわけがないし……」


「おい心の声が駄々洩れだぞ」


「こないだの意味わかんない質問も、もしかしてそういう……」


 決定的な答えを求めるように俺のことを見てくる。


「あのな、千咲。小舞子さんはでたらめなことを言う人なんだよ」


「ひどいなぁ。私本当のことしか言わないけど?」


 小舞子さんの言葉をスルーしてそのまま続ける。


「それにな、自分でも言うのもあれだけど俺が体の関係を持てるほど外見がいいと思うか?」


「た、確かにっ⁈」


「悲しすぎる同意だけどありがとさん」


 これまさに、肉を切らせて骨を断つ。


「じゃあ、なおさらどういうことなの? レンタル彼女?」


「金銭面のやり取りは一切ありません」


「じゃあなんなのさ」


「さぁ?」


「は?」


「まぁ、よくわからん関係だよ」


「ま、そういうことになるね」


 小舞子さんと目を合わし頷く。

 俺たちの中で結論が出ていた。


「……はぁ、兄貴に聞いた私がバカだった」


 部屋を出て行く千咲。

 「あっ、そういえば」と思い出したように振り返る。


「ヤるんならホテルでヤってよね」


 ……俺の妹もなかなか神経が図太いようで。








 すっかり日が沈み、辺りが夜に溶け込んでいく。

 等間隔に設置された街灯を頼りに小舞子さんと並んで歩いていた。


「いやぁ今日は楽しかったよ。ありがとね、和倉くん」


「これからは事前に言ってくれると助かります」


「ふふっ、驚かせたかったんだ。でも、次からはちゃんと言うよ」


「よろしく」


 次小舞子さんが来ることがあるのか。

 でもそれが自然な流れな気がしてツッコむことはしなかった。


「それにしても和倉くんの妹ちゃん、めっちゃ可愛いね」


「俺に似ず美形に生まれたんだよなぁアイツは」


「確かに?」


「おい喧嘩売ってんのかいくらでも買うぞ」


「冗談だよ冗談。やっぱり、和倉くんの妹ちゃんだなって思った」


「そうか?」


 近所の人には兄弟に見えないとよく言われたものだ。

 何なら親父ですら言ってくる。親父妹好きすぎなんだよなぁ。


「うん。雰囲気がね」


「へぇ」


「私が和倉くんと結婚したら私の妹にもなるのかー」


「それは俺と結婚したいっていう遠回しなプロポーズ?」


「結婚しちゃう?」


「しよう、と言いたいところだけど妹をダシにして結婚するのは男として恥ずかしいな」


「ふふっ、変に真面目っ」


「ちゃんとする男なもんで」


 そうこうしている間に駅に到着した。


「じゃあ、また今度ね」


「おう」


 ひらひらと俺に手を振り小舞子さんが改札を通っていく。

 俺も同じように振り返して、見えなくなったところで手を下ろした。


 そして一人、月を眺めながら歩き出す。


 一体俺と小舞子さんの関係は何なんだろうか。

 

 あの日ヤったかヤってないかもそうだ。それも答えが分からない。

 それに俺は小舞子さんのことをよく知らない。


 分からないことだらけだ。


「青春むっず」


 モヤモヤを晴らすように足元にあった小石を蹴飛ばした。

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