第7話 一体どんなカンケイ?
人気のない屋上前のスペースにて。
さながら借金の取りたて現場のような緊迫感があった。
「まず、春咲さん。なんで昨日のこと知ってたの?」
「そ、それは私があのカラオケでバイトしてるからで……」
「へぇ?」
「は、はい……」
「でさ、分かるよね? 俺の言いたいこと」
「わ、分かりません?」
頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ。
俺はさらに距離を詰めて問い詰める。
「小舞子さんとカラオケいたなんて話誰かに聞かれたら、俺バラバラにされて東京湾に沈まされちゃうわけ」
「どこのギャングの話だぁっ⁈」
「だから、そういう軽率な発言は……」
「和倉くん?」
「なに、小舞子さん」
「……今の状況、明らかに和倉くんがさつきを襲ってるように見えるよ?」
「へ?」
冷静になって考えてみると、確かにそうだ。
春咲さんは今にも泣きそうにうるうるしているし、何気に俺の横で腕を組んで立っている能美さんは威圧感がある。
「あっ、ごめん。つい尋問癖が……」
「その癖絶対にやめた方がいいと思うよ⁈」
春咲さんから距離を取る。
ふぅ、と安心したように一息ついた。
「とにかく、あぁいう話は人前では避けてくれ。俺の身の安全に関わるから」
「わかりました……」
実際、あまりにも現実味のない話で周りには信じられていないようだったからひとまずよかったが。
「それでさ、和倉くんと雅はなんでカラオケにいたの? しかも二人で」
「そ、それは……なんで?」
「なんで私の方見るの?」
三人の視線が小舞子さんに集まる。
「うーん……なんでだろ? 暇だったから、とか?」
「あの男嫌いの雅が、ね?」
「その目は何? いいじゃん、クラスの男の子と親睦深めたって」
「それがなんで一対一になんのさ!」
「うーん……なんで?」
そして視線は俺に帰る。
「俺が知るかって。俺は小舞子さんに誘われたんだから」
「そうやって女の子に全部押し付けるんだね……ひどいよ和倉くん」
「私からは以上です」
「ちょっとは慰める気持ち持とうよ?」
「小舞子さんお得意のお芝居でしょ?」
「感じ悪いなぁ」
ふと、完全に聞く側に回っていた二人を見る。
「その感じ、どうにもクラスの男子って感じじゃないんだよね」
「わかる! なんかもっと深いつながりがあるような、なんというか……」
「深いつながり、ね?」
俺の方を見ないでもらえます、小舞子さん?
やっぱりこの人、えっちだ。
「ねぇ、二人って、どういう関係なん?」
どういう関係、と言われると確かに分からない。
実際、俺もそれが知りたいまである。
「そうだなぁ……不思議な関係、って感じ?」
「答えになってない!! 余計に不思議だよ!!」
「まぁまぁ、そんな焦らないでって」
「だって気になるんだもん! 今まで雅とちゃんと関わる男子っていなかったんだし!」
「確かに」
クスクスと小舞子さんが笑う。
「まぁさ、私と和倉くんとの関係に名前が付いたとき、二人に教えるよ」
なんて曖昧なことを言うんだろうか。
だけど、それに二人は納得したような顔をして、
「そっか。分かった」
「うん! そんとき聞くね!」
俺だけがさっぱりわからなかった。
友達になるんだろうか。
それとも恋人? もしくはセフレ?
全く分からない。
「だってさ、和倉くん」
小舞子さんが含みのある笑みを浮かべて俺のことを見てくる。
小舞子さんは一体、どんな未来を思い描いているんだろうか。
***
昼休み。
晴れているので、雅とさつきと凜の三人で中庭で昼食をとる。
話題はもちろん、和奏のことだ。
「それにしたって、雅が和倉とねぇ?」
「意外って言いたいの?」
「まぁね」
「でも和倉くん、ちょっとカッコいいよね!」
さつきの言葉に雅の箸が止まる。
急に黙りこくった雅を見て、二人がニヤリと笑った。
「一体どんな関係になるのか、楽しみですなぁ」
「わぁー!! なんか私、嬉しくなってきちゃったっ!!」
「……二人とも性格悪いよ?」
「類は友を呼ぶ、だからね?」
「なんだと~!」
ひとしき笑った後、思い出したようにさつきが口を開く。
「そういやさ、和倉くんって一年の頃の選択授業の美術? で同じだったよね」
「あぁーそういえばそうだった。確かその時、雅が……」
「それ以上は言っちゃだーめ」
「ふふっ、そっか」
「全く、こんな可愛い生き物はいないっ!!」
「さつきも可愛い癖に!」
「凜は……カッコいいですな」
「何それ。私も可愛いに入れてよ」
***
「どういう関係、か」
近所のスーパーに行く道で一人呟く。
何となく関わりのある小舞子さん。
ますます分からないことが増えて、頭は混乱していた。
「そもそも、なんで教えてくれないんだろうなぁ」
依然としてヤったかどうか教えてくれないのだ。
本当に、小舞子さんがどういう意図で俺に関わってるのかさっぱりである。
「まっ、考えなくてもいいことは考えないのが俺のスタンスか」
ひとまずモヤモヤに決着をつけてスーパーに入る。
今夜の晩御飯を想像しながら食材を手に取る。
ふとたどり着いた卵コーナー。
「え⁈ 卵一パックがこんなに安いのか⁈ マジか⁈」
広告にも載っていないゲリラ開催。
「うぉ!! これは千咲に報告だな」
ウキウキで卵を片手に自撮り。
「あれ? 和倉くんだ」
見覚えのある声に振り向くと、桜色の髪を揺らす春咲さんの姿があった。
「こ、こんにちは?」
「なんで疑問形⁈」
突然の遭遇すぎて会話の仕方を忘れてしまった。
「ってかさ、なんで卵とツーショット撮ってるの?」
……あ。
「……今映えるらしいんだよ、この卵」
めちゃくちゃ見苦しい言い訳になってしまった。
さすがに変に思われるだろう。
「マジで⁈ 知らなかった!」
何この子変な人⁈
人を疑うっていうのを知らないのか?
パシャパシャと自撮りをする春咲さん。
ふと写真を確認。
「……最近の映えはよくわかんないね」
そんな映えは存在しないからね……。
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