第5話 許してあげない
「今日は来てくれてありがとう」
「うん」
他人行儀な小舞子さんの返答。
恥じらいながら頬を掻くもう一人の男子生徒を見る限り、これは告白だろう。
全く、変なタイミングで教室に来てしまった。
「あんまり見ていいもんじゃないな」
そう思って離れようと思ったが。
いつもと雰囲気の違う小舞子さんがどうしても気になってしまった。
ごめんなさい、と男子生徒に心の中で謝罪をして、気づかれないように扉に隠れる。
「あの、さ。俺のこと覚えてる?」
「ごめんなさい、あまり記憶がよくなくって」
「そ、そっか! まぁそうだよね。あんま話したことなかったし、去年同じクラスだっただけだし」
遠回りするように話す男子生徒。
小舞子さんはそんな男子生徒の意思を見抜いたのか、
「それで、どうして私をここに?」
「そ、それは……さ。今、小舞子って彼氏とかいるの?」
「いないけど」
「そ、そっか」
少し安心したようにほっと一息つく。
「その……さ、もしよければ、俺と付き合ってくれない?」
その言葉が、自分に関係のないものであるはずなのにドキリとする。
温かな教室に似つかわしくない、ピンと張りつめた空気。
それを切り裂くように、小舞子さんが口を開いた。
「ごめんなさい」
小舞子さんとは思えないほど冷たい一言。
「そ、そっか」
重い沈黙が流れる。
これ以上部外者である俺がいてはいけない気がして、足音を立てないようにひっそりと教室を後にした。
「あっ、和倉くんだ」
「げっ……小舞子さん」
声をかけられたのは、教室から少し行ったところの階段。
座ってボーっとしていたら、一番気まずい相手に出会ってしまった。
「げっ、って何? 私と会えて嬉しくないの?」
「……今は、嬉しくないかも」
目を合わせないようにしていた俺を小舞子さんが下から覗き込んでくる。
「あっ、もしかして私が告白されてるの、見てた?」
「罪悪感はあります」
「何それ。別に悪いことじゃないし」
そう言いながら、教室の方に向かって歩いていく。
小舞子さんの後姿をじっと見ていると、不思議そうに俺を見て首を傾げた。
「どうしたの? 教室に忘れ物でもしてるんじゃないの?」
「……小舞子さんって、もしかして名探偵?」
「ついてきたまえよ、ワトソンくんっ」
鼻歌混じりの小舞子さんの横に並んで歩く。
教室に入ると、さっきとは打って変わって空気がふんわりとしていた。
「小舞子さんってさ、意外に冷たい人?」
「どうして?」
「だって、あの人と話してる時結構冷たかったし」
「それは、『ワンチャンあるかも⁈』って思わせないため。私なりの優しさのつもり」
「へぇ~」
告白されたことがないからよく分からない。
が、そこんとこ経験豊富な小舞子さんが言うなら間違いないんだろう。
「ってことは、俺にかなり気さくに接してくれてるのは『ワンチャンあるかも⁈』って逆に思わせるため?」
「ふふっ、それ自分で言う?」
「遠回りは嫌いなんだ」
「私は、遠回り大好きだけどね」
後ろに手を組んで、小舞子さんが教室を練り歩く。
「前に言ったでしょ? 和倉くんは特別なの」
「それは、一度ヤった男だからですかねぇ?」
「隙があれば聞いてくるなぁそれ」
「小舞子さんがもったいぶるからでしょ?」
「もったいぶってないよ、別に。私はただ、ね?」
風がふわりと吹く。
「今の私を、見て欲しいんだよ?」
カーテンが膨らんで、ほのかに春の匂いがした。
「じゃあ、色んな角度からじっくり見させてもらおうかな」
「ローアングルは禁止です」
「ちぇっ」
雑談をしつつ、ICカードを無事回収する。
小舞子さんは自分の机に腰を預け、俺をじっと見ていた。
「もしかして、これから学校でウフフな展開が?」
「和倉くんは、ここで私が目を閉じたら、その唇で私の口を塞いでくれるの?」
「抱きしめるまでセットかな」
「ふふっ、変なの!」
小舞子さんがリュックを背負って、教室の外に向かう。
そして振り返って一言。
「ねぇ、和倉くん。今から暇?」
薄暗くて狭い部屋で。
小舞子さんが太くて長いものを優しく握る。
柔らかそうな唇をぷるんと震わせて、口をそっと開いて……。
「会いたくて、会いたくて震える~」
「カラオケかいッ!!!」
みんなの分までツッコみました。
以上です。
「さっ、今日はたくさん歌うよ~」
学校の最寄駅から少し電車に乗り、人賑わう町を訪れた俺と小舞子さんはカラオケ店に来ていた。
ちなみに、小舞子さんのテンションはかなり高い。
はぁ、とため息をついてマイクを置く。
「それにしたって、なんでカラオケ?」
「和倉くんと二人っきりになれるから?」
「本当は?」
「和倉くんに押し倒されちゃったりして?」
「……本当は?」
「本当なんだけどなぁ」
なんて言いつつも、小舞子さんに隙はない。
ほんと、さっきの告白の時といいよく分からない女の子だ。
「あっ、次はこれ歌おっかな」
ルンルンでセットをし、曲が流れる。
小舞子さんはアイドルになれるほど歌が上手かった。
ちなみに、俺は……。
「普通」
「うるさいわ!」
一番面白くない奴ですみませんネ!
その後、数曲お互いに歌った。
小腹が空いたので食べ物をつまみつつ、ダラダラとする。
「あぁーなんか疲れたな」
小舞子さんがくーっと腕を伸ばす。
それと同時に白くてほどよくむちっとした足を伸ばし、俺の膝の上に置いた。
「小舞子さん、パンツめっちゃ見えそう」
「とかいって、どうせ見ないでしょ?」
ふふーん、と余裕そうな表情を浮かべる小舞子さん。
なるほど、どうやら小舞子さんは俺が無害だと思っているようだ。
「見れるもんなら全然見ますけど?」
「へぇ? じゃあ、見てみたら?」
顔に『どうせ見れないだろうけど』と書いてある。
だがやるときはやるんだと、俺は知っている。
ジト目で小舞子さんを見つめ、膝の上に乗っている足にそっと触れる。
「っ⁈」
真っ赤になる顔。
……ははーん?
「さっき見ていいって言ったよね?」
「……和倉くんって、やっぱり変態?」
「男子高校生はみんな変態だ。むしろ変態が正常」
「すごい偏見だ……」
それでもまだ余裕さを見せる小舞子さん。
俺は意を決して、手を上に動かす。
「んっ、ちょ、ちょっと和倉くん⁈」
「いつも余裕そうなのに、耳が真っ赤だよ?」
「……へ、へぇ? 意外に和倉くん、肉食系?」
「まぁね」
表では余裕を装いつつ、俺の内面は史上最大級に混乱していた。
ヤバい! なんだこの柔らかい太ももは⁈
ずっと触っていたいくらいだ!
クソッ! 理性が持つ気がしないッ!
興奮を鎮めようとしながら、手を動かす。
「あ、んっ……だ、だめだって。んっ……」
小舞子さんが我慢しながらも甘い声を漏らす。
完全にムラっとしてきたところで、手を離した。
「俺だって男だからな? 欲情させられたら、こうなるから……」
俺の言葉を遮るように、小舞子さんに押し倒される。
そして俺の体に跨って、はぁはぁと息を漏らした。
「もう、許してあげないんだから」
小舞子さんが俺の胸板にそっと手を置く。
そして顔が、そっと近づく……。
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