第10話

そんな生活にも慣れて、1ヶ月が経ったある夜。

その日も酔っぱらっていた母親は自室に籠っていた。

少し空いている隙間から部屋を見ると、写真立てを見上げて啜り泣く母の姿がそこにはあった。

日々、向けられる態度とはあまりにもかけ離れたその姿に彼女は驚きのあまり目が離せなかった。

「何で私を捨てたんだよ父さん」

見つめる先に映っていた男、それは "佐野勇太"だった。

"夏蓮"となった彼女の辛く忘れようとしたその記憶が再び思い出される。

扉を開く。

泣いていた母はいつものような態度に戻ろうとしていたが、目の前にいる人物の一言で二度とそう思う気にはならなかった。

「今まで遊んでばかりで構ってやれなくて、ごめん」

いつもならムカついていたその態度だが、なぜか夏蓮のその言葉に亡き父の面影を感じた。母の目からは涙がなぜかこぼれる。

夏蓮自身も正直自分が言っていることが分かってはいなかった。前世の"柊 愛依"より前の記憶など無いに等しかったからだ。

そんな彼女の意思に反して、勇太は夏蓮の口を動かす。

「今なら分かる。家族をないがしろにしてまで遊んでいたことの愚かさが。娘のお前にも余計な苦労を掛けてしまった。結月、すまなかったな」

もはや夏蓮の母である結月には以前のような傲慢さなど微塵もなかった。

娘に抱きつき、泣きじゃくる姿は親に甘える娘そのものだった。

そんな結月を夏蓮の手が撫でている。

夏蓮の額にも涙が輝いていた。

しかし、それは娘と一緒に泣いてくれる結月の父の "勇太" としてではなく、自分が自分でない感覚に陥った結月の娘 "夏蓮" の涙であった。

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