【ピアノ弾き】の冒険者~「戦闘中にうるさいんだよ」と追放された、演奏で《バフ&デバフ》を操る自称『補助最強』の俺は、一緒に追放された笑わない女剣士を英雄にしてやろうと思う~
第21話 ◆先見の明のダンジョン攻略◆ ⑤
第21話 ◆先見の明のダンジョン攻略◆ ⑤
◆◆◆【SIDE:ネロ】
ーー黒迷宮 100階層
グモォオオオオオ!!!!
地獄の入り口に立つ『死神』を前に、俺は一瞬呆気にとられ、ニヤリと口角を吊り上げた。
……ほ、ほら、見ろ!
アイツなんて要らない!!
こんなに早く100階層まで来れるんだ!
お前にできるか? アルマ!
お前には出来なかった。
そうだ……できるはずがない!!
でも俺が動けば、こんなにも早く深層に潜れるんだ。俺だから、出来たんだ。
俺は、間違えない……!!
「クククッ……」
俺は小さく笑い振り返る。
「何をボサっとしてる? さっさと動け。討伐するぞ」
「ネ、ネロ……。で、でもよ、」
「ん? 何ビビってる、ゴードン。お前が最前衛だろ? 早く盾と斧を持てよ」
「……ま、待てよ! なんかおかしいだろ!? こ、こんな……。そうだ!! 今回は50階層までだったろ? 一度立て直して、」
「おい。……"コイツ"を討伐したことあるだろ……? かすり傷一つで……」
「……あ、あぁ。でも! 今は、」
「"今は"? ……今はなんだ?」
「お、俺も認めたくねえのはわかるけどよ」
「……ぁあ?」
「……ア、"アイツ"がマップ見てるとこなんて見たことあるか? 毎回、同じ道を進んでるわけじゃなかったよな? ダンジョンで歩くだけで疲れた事ねぇだろ?」
「何が言いたい?」
「……ア、アルマがいねぇだろうが! 少し落ち着けよ! ここは逃げて、ちょっと整理してから、」
グザンッ!!
俺はゴードンの耳を斬り飛ばしす。
「う、ぁぁあああ!!」
「"逃げて"だと? ……黙れ。俺は間違えない……」
「ネロ、テメェエ……! う、耳が、ぁああ、クソ、クソッ、いてぇええ!」
「うるさい。さっさと"あの死神"を討伐するんだよ。盾と斧を持て、これは命令だ」
「……い、嫌だ、嫌だ! 無理だ!! し、死にたくねぇえ!! あんなヤツと戦えねえ!!」
「……俺は間違えないんだよ!! さっさと準備しろ、カス!! 一度は討伐した相手だろうがぁあ!!」
「……ア、アルマ……。アルマ!! 助けてくれ! 早く!! 騒音でも何でもいい!! 早くピアノを聞かせて、」
グザッ……
這いつくばりながら逃げ出そうとするゴードンの背中にに剣を突き立てる。
「ぐっ、ぁあ……うぅうっ、ハア、ハア、ハア……ぁあああああ!!!!」
「クレハ、なにしてる? 《治癒》しろ」
「……ネ、ネロ……」
「さっさと《治癒》しろ!! お前も"こう"なりたいのか!?」
「ヒ、《治癒(ヒール)》……」
ポワァア……
ゴードンの腹と耳に光が集まる。
腹の傷はみるみる塞がり耳の出血が止まる。
「な、何してくれてんだよ!! ネロ!! 耳が!! 俺の耳がねぇ!!」
喚くゴードンなど気にする事なく視線を移す。
「カリム、さっさと魔法で牽制しろ。前みたいに"雷魔法"で動きを封じるんだよ」
グモォオオオオオ!!
"デスミノ"……骨牛の死神の咆哮に俺はスキルを発動させる。
「《皇帝眼(エンペラー・アイズ)》」
引き伸ばされた時間の中でゆっくりと振り返る。スローモーションの世界で威圧すれば、コイツはすぐに萎縮し、動きを止め、
「……はっ?」
俺の目の前には死神の赤い眼がある。
引き伸ばされている時間……だよな?
スッ……
振り上げた大鎌は"普通の速度"で振り下ろされ、
グザンッ……!!
えっ、あれ? 俺の手が飛んで……?
「……え、あ……、ぁあ、ああああああ!!!! い、いてぇ!! いてぇえええ!! 何してる、クレハ!! さっさと傷をぉおおおお……!!」
俺はバッとクレハに視線を向けるが、
スゥウウ……
ゆっくりと俺に視線を向けようとするクレハに全身がガクガクと震え出し、サァーッと血の気が引いていく。
スッ……
またも"普通の速度"で振り上げられた、死神の大鎌にゾクゾクッと背筋が凍り身動きがとれない。
ーーおっ、おお……!! 死神じゃん!! 牛の死神だ! なんか強そうだし、かっこいいな! インスピレーションが湧くぞ!!
初めてのダンジョン攻略だった。
前人未到の188階層踏破。
ーーさぁ、みんなで踊ろうか! 《六重奏(セクステット)》!!
あの頃はまだ楽しそうに笑っていた。
まだ、アイツはちゃんと弾いていた。
……騒音になる前だった。
まだ一応、演奏を聞いてた……。
いや、違う。ち、違う。俺の力で……。
俺の……、この俺の力だけで……。
俺は……。俺は……!!
……間違えたのか……?
グモォオオオオオ!!
大鎌が俺の首を刈りに来る。
引き伸ばされても、この速さ?
俺が……、この俺が、なす術なく……!?
なんだ? 何が起きてる?
死ぬ……? 死ぬ? 死ぬ?
死ぬ死ぬ死ぬ、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!
死ぬ!!
い、嫌だ!!
嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だいやだ嫌だ!
じ、じにだぐない!!(死にたくない)
「な、何をしてんだよ! お前らぁ! さっさと、俺を守りやがれぇえ!!」
俺は叫んだ。
叫ぶことしかできなかった。
助けて、いやだ、嫌だ。死にたくない。
誰か、母さん! 父さん!
誰か!! 誰でもいい!!!!
クレハ! ゴードン、カリム!!
さっさと俺を助けろ。
俺はこんな所で終わっていい男じゃ、
バチッ……
死神の赤い眼光にカチカチカチと歯がぶつかる音が鳴る。
も、もう、ダメだぁあ!
あ、ああああ!!
い、いや、いやだぁあああ!!
リ、リーシャ……!!
「ア、アルマァアアアアアア!!!!」
俺は絶叫した。
大嫌いなヤツの名前を……。
恐怖に支配され、身動き一つ取る事も出来ず、ダラダラと涙を流しながら。
散々罵倒し、自分には不必要だと判断したヤツの名前を叫んだ。
「《七重結界(レインボーバリア)》!」
ガキンッ!!!!
「……えっ……?」
アティの声と共に防がれた攻撃に、マヌケな声を出すと、刈り飛ばされた腕の激痛が襲ってくる。
「くっ……ク、クレハ!! 何してやがる!? さっさと治せ!! なんでもいいから、俺を守れよ! お前らぁああ!!!!」
俺が涙をボロボロと流し、身体をブルブルと震わせながら叫んでいると、
グザンッ……
盾を構えて亀みたいに縮こまっていた巨体が真っ二つになった。
プシュゥウ……
バラバラの四肢がゆっくりと宙を舞っていた。
カランッカランッ……
「……あっ、盾は無事だったんだ」
俺は見たままをポツリと呟く。
まぁ、ゴードンは武具マニアだし、装備は最高級品だし当たり前か……。
そんなどうでもいい事を考えていた。
俺の最強の盾。
4大魔術に耐性を持ち、その屈強な身体で無数の相手の攻撃を防ぎ続けてきた幼馴染。
ーー俺は、いつか『七宝神器(セブンス)』の盾と斧を手に入れるんだ!!
"俺に付いてくりゃ、余裕だ"なんて軽く笑いながら聞いたゴードンの夢。
俺は座り込んで縮こまっていたゴードンが、なんの抵抗もできず、その四肢が一振りでバラバラになった姿を見つめてながら、
まぁ、武器マニアだもんな……。
なんて事を考えていたのだ。
「う、うゎああああ!! ラ、《迅雷(ライトニング)》!!」
カリムは絶叫と共に攻撃魔法を放つが、
バチバチバチッ……
手からチョロチョロっと電気が走っただけだった。
「……へっ?」
カリムの《迅雷(ライトニング)》は特別。いつもは雷が落ちたかと錯覚するほど強力な魔法だ。
以前は、この死神の身体の自由を奪ったはずの攻撃魔法なのに……? こんなもの、下級の魔物にしか効かないじゃねぇか……。
「あ、ぁあ……アレ……。なんで?」
グザンッ!!
小首を傾げ、顔の穴という穴から水を垂らしたカリムの首が飛んだ。
ーー僕は貴族になって最高の美女をたくさん妻にするんだ!
「い、いやぁあああああああ!!!!」
クレハが絶叫する。
なんだ……。
なんなんだよ、一体……。
この地獄は、なんだよ……。
カリムの馬鹿みたいな夢を思い返しながら、俺は目の前の死神に対して失禁した。
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